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濡れて堕ちて……
第1章 孵化
「俺の鞄と靴下とスーツ」

パジャマ姿のまま朝食を食べる浩一の身支度の用意。

夫の身の回りのお世話、妻としてこれほど幸せな事はないはずなのに。


「ねぇ、今日は早く帰って来れる?」

「さぁな」

「今日は久しぶりに映画でも見ない?おもしろそうなDVD見つけたから一緒に---」

「面倒臭いから遠慮しとく」




結婚して8年、確実に夫婦の会話は減り始めてる。
会話どころか浩一が最後に私の目を見て話してくれたのなんていつだろう。


浩一との会話はいつもこうだ。
大抵「面倒くさい」か「あぁ」「さぁ」の一言で終わる。

ときめくような会話もわくわくするような会話もない。


8年も経てばこんなものなんだろうか…。


朝食を食べ終え、スーツに着替えた浩一を玄関まで見送る。
廊下を後ろからパタパタと付いて来る私の方を振り返る事もない。


「行ってらっしゃい」

「あ、そうだ。悪いけど、今週末空けれるか?」

「え?今週末?何で?」

「先月俺の友達が結婚してさ。お互いの奥さんを交えて食事しようって誘われてるんだ。だから週末空けとけ」


週末って…。
浩一の誘いはいつも急だ。

私に何の断りもなく勝手にスケジュールを決めて来る。
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