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濡れて堕ちて……
第3章 火花
「昨日倒れたのに、歩いて大丈夫ですか?」

「あ、私いつも徒歩だから」

「で、俺に何かご用ですか?」

「え?あ?あぁ…あのね」


お礼がしたいのに、いきなりこんなタイミングとシチュエーションじゃ。

まぁ、わかりにくいメールを送った私が悪いんだけど。


「昨日のお礼がしたくて。そのために連絡先を教えてもらったんだし…」

「教えといて何だけど別にいいですよ、そんなの」

「ダメよ!お世話になったんだから」



嘘だ。
 
本当はこのまま「お客様」と「店員」に戻るのが嫌なだけだ。

言い訳みたいだけど


もう少し、このオーラに癒やされたくて…。


「うーん。あ、じゃあ、すっごい図々しいワガママ聞いてもらっていいですか?」

「何?私に出来る事なら」





「鈴村さんの手料理が食べたいです」





え?

私の、手料理って…。


あまりにも唐突な申し出に目をぱちくりさせた。

手料理って!!


「ダ、ダメダメ!手料理なんて、そんな…」

もしかして、新村さんって

私が既婚者って気づいてないのかな?


結婚指輪はちゃんと付けてるのに…。


「あー…やっぱり図々し過ぎました?」

「だって…」





だって何?

私の手料理は浩一のものだから?




文句ばっかり言われて
まともに完食すらしてくれない浩一の為に
必死に守らなきゃならない腕でもないのに。


「鈴村さんの家に上がり込むつもりはないですよ!俺の家で作ってもらいたいだけで…」

「新村さんの家?」

「俺もこの辺に住んでるんです。一人暮らしですけど。俺みたいなのが上がり込んで、鈴村さんの手料理食ってたら、ご主人に怒られるじゃないですか」


あ、一応既婚者だって気づいてたんだ。


でも、普通の主婦が一人暮らしの男性の家に上がり込む方が危ないのでは?


「でも、彼女さんに悪いし…」

「俺、独り身ですから」


尚更、危ない気が…。





「私、明日休みなの。明日なんてどう?」









「はい。迎えに行きます」
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