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濡れて堕ちて……
第3章 火花
「あ…えっと…」

浩一は家では仕事の話を一切口にしないから、会社名がすんなり出て来ない。

結婚して8年、浩一の会社に電話すらかけたことない。

それでも、家にある浩一の会社の資料や車に乗ってたサンプルに書いてあった会社名を必死で思い出した。


「えーっと、カンノウ商事…だったかな?歓ぶって字に皇室の皇で歓皇商事」

「めちゃくちゃ大手じゃないですか!!調味料系での会社なら1、2を争う成績ですよ!」

「そうなんだ…」

「はい。社員も多いし、毎年黒字を叩き出してるらしいです」

「じゃぁ、新村さんの会社も調味料を扱ってるの?」

「俺はカルビナス株式会社って言うスイーツ系のお菓子を扱ってる小会社なんで、陽子さんの旦那さんとは全然土俵が違いますよ」


浩一が大手なら新村さんは、下請けとかそんなところかな?

浩一と接点を持つことはなさそうだ。 

取り引きって言っても、浩一は1日パソコンと睨めっこしてるらしいし新村さんに会うことはないだろう。




「そんな大手勤めの旦那さんなら鼻高々じゃないですかー?」


鼻、高々…?





浩一は家では滅多に仕事の話はしない。

会話につまったり、先日みたいに喧嘩した直後などは機嫌を取る為か、時間を潰したい時等は話してくれる。

それ以外、浩一の口から仕事の話が出て来ることはない。

男性の仕事に対してあれこれ聞いてくる女性が嫌だそうで、それが妻だとしても考えは変わらない。


だから、浩一の会社がどのくらい大手なのか、どれくらい社員がいるのかすら知らない。


それに、いくら大手に勤めてても






妻が腹痛で倒れても眉1つ動かさない旦那なんて…




鼻高々なんて、さすがに思えなかった。


 

「鈴村さん?どうしたんですか?うつむいて…」

カチャカチャと食器音を立て私の目の前のテーブルにコーヒーを置いてくれた。
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