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濡れて堕ちて……
第5章 禁忌
「お前さぁ、最近何かいいことでもあった?」


平日の早朝、リビングでトーストをかじる浩一、キッチンに立つ私に話しかけて来た。

「え?何で?」

浩一が朝からそんなマトモな会話を投げかけて来るなんて珍しい。

いつもは低血圧だからって不機嫌そうな顔してる癖に。


「いや、何となくだけどさ。毎日楽しそうって言うか…。それにお前、少し痩せた?」


そーいえばここ最近は徹とメールばっかりしてた。

体重は毎日計ってるけど増減なんてしてないし。

いつもはそんな会話なんてしない浩一の変化に、嫌な予感がした。






まさか…。

何かに気づいて…







「き、気のせいじゃない?」

「そうか?」

「急にどうしたの?変なこと言わないでよ」







出来立ての目玉焼きをテーブルに置き、そそくさと脱衣所の洗濯機に逃げた。





嫌な気配。

普段は鈍いくせに何で急に?





回してもいない洗濯機のそばでいろんな仮説を考えた。

明らかに、浩一にしては不自然な質問だ。





まさか、私にカマをかけてるとか?

いいことでもあった?なんて聞いてるけど、本当は全部バレてるとか?

内緒で私の携帯を見たとか?






焦る私を尻目に玄関から

「行って来るわ!」

その一言だけが聞こえた。

焦って
行ってらっしゃいも言えなかったが

今口を開けば声まで震えて、動揺してるのが丸わかりだ。






けど、もしバレてるなら浩一の事だから、探偵を雇い言い逃れが出来ないように証拠を集める…、なんて機転は利かない。

バレたらその場で熱くなるタイプだし

バレてはなさそうだ。


それにしても、私って浩一から見てもわかるくらいに変わったかな?

毎日一緒にいて、私の事なんて見てない浩一でもわかったんだから。


脱衣所にある洗面台の鏡に映った自分を改めてマジマジとよく見た。



…どこも変わってない。

相変わらず、シミはあるし、そろそろ小皺だって出てきそうだし。


多分、浩一の気のせいだろう。
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