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濡れて堕ちて……
第5章 禁忌
「いや…、何かさぁ。…いろいろと悪かったなぁと思って、さ」


え?

いろいろ、悪かった?


不倫がバレたのか、それとも仕事関係の話題か、とびくびくしてたのに

浩一の口から出て来た言葉は

何の事かさっぱりわからない謝罪だ。


一体、この人は何を謝ってるの?

何を悪いと思ってるの?


きょとんとする私の前で、浩一は箸を置き、ンッと咳払い、姿勢を正し、私の目を見据えて…



「思い返したら…その、ここ数年、お前に無理ばっかりさせてたなぁと思って…」

「え?」


目を泳がせながら、浩一は更に続けた。

「お前に数え切れないぐらい迷惑かけたと思うし…、デリカシーのない事言ったり、無理なワガママ言ったり、さ」


浩一?


「お前が腹を立てる気持ちもわかってた。でも、俺の機嫌を取ろうとするお前の作り笑顔がとにかく腹立たしくて…」


今、私の目の前にいるのは…誰?


「お前の作り笑顔は自分の未熟さが反映されてるみたいで…、段々お前の顔すら見れなくなってた…」


浩一がこんな事言う訳ない。


「いつも“後で謝らなきゃ”って思うのに、お前の諦めたかのような溜め息と表情にまた腹が立った」


こんな事…


「その原因を辿れば俺なのに。俺のせいで何回お前を傷つけたんだろうって…」





浩一が

こんな幸せな事、言う訳ない。


どうせ、また後で手の平を返したみたいにワガママ言うに決まってるんだ。

どうせ、明日になればまたいつもの俺様な性格に戻るに決まってるんだ。



騙されるもんか。



なのに、何で?

目の前の浩一が歪んで見える。

歪んで滲んで見える。


「お、おい!陽子?」

「え…?」



私の頬を伝う熱い滴。
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