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揺れる心
第4章 初めての夜
「お兄様が海斗さんの大切なものを盗るっていうお話し、訊いても良い?」と言うと、
背中や腰を撫でていた手が止まった。

「あ、ごめんなさい。
立ち入ったことを…」

「良いんだよ。
爺ちゃんが言ってた通りだよ。
最初は他愛ないもの。
歳だって一回り離れてるんだから、
同じものを欲しがることなんてない筈なのにさ。
俺が大事にしてるオモチャ、
本、なんだって取り上げては捨てるんだよ。
大会で賞を取って誉められたりしたら、
賞状とかトロフィーも無くなってた。
爺ちゃんと婆ちゃんは、
モノなんて気にしなくて良い。
頑張ったことは、判ってるんだからと言ってくれてたけど、
悔しくていつも泣いてたな。
飼って貰った犬もね、
ある日、居なくなった。
証拠はないから、何も言えなかったけど、
首輪を庭に埋めてるのを見て、
ひょっとしてと思ったこともあった」

「まあ…」と息を呑んだ。

「それより参ったのは…
大学1年の時、初めて女の子と付き合った。
2年先輩の同じ医学部のリカっていうコだった。
ある時、兄貴が持ってる研究室に呼ばれて行ったら、
兄貴と彼女がセックスしてたんだよ。
真昼間の研究室でだよ?
当時、兄貴は大学病院の中で順調に出世してて、
自分の研究室持っててさ、
そこに呼ばれたらそんな状況だったよ。
俺は何が起きてるか判らなくて立ち尽くしてしまった。
俺と目が合った彼女は、
乱れた服を直しもしないで、
余計に腰を振って声を上げてた。
俺とする時、そんな声なんか出したことないくらいで…。
兄貴は俺を見て、笑ってた。
逃げるように家まで帰った。
家って、爺ちゃんの処だよ?
本宅には入ったことない。
そしたら、その夜、兄貴が爺ちゃんの家に珍しく来て言ったんだ。
『リカは、海斗じゃ物足りないんだってさ』
それで、彼女とはそれっきり別れた」

「そんな…」
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