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揺れる心
第5章 油断
私は首を縦に振る。


「無理矢理でしょ?
そんなの、気にしないよ。
真理子さんの気持ちを聴かせて?」


「私…海斗さんが好き。
なのに…自分を守れなくて…
申し訳なくて…
二度と会えないと思って…
もう目が覚めなくて良いって思って…
それで、薬を飲んだの」


息を呑むと、私を抱き締めてくれる。
海斗さんの涙が私の頬に落ちる。


「でも、1人になるの怖い。
また、何かしてしまいそう。
それに、また、お兄様が来たら…」


「どこか遠くに2人で行こうか?
離島とか。
医師免許あるから、食べていくくらい、何とでもなるよ。
それに、真理子さん、穢れてないから。
意思に反して無理矢理されたんでしょ?」

「でも、私も迂闊だったの。
ホテルのロビーで偶然会って、
謝りたいから一杯だけって言われて飲んで、
うっかり脚を捻って歩けなくて支えて貰って、
客室の前まで連れてきて貰って。
そんなの、絶対ダメなのに。
気づいたらあっという間にお部屋に入られて…。
ネクタイで縛られて…」


「何も言わないで?
辛かったね」


「怖くて気を失ってしまって…。
何をされたか判らないけど、
翌日、産婦人科に行ってからなんとか仕事して帰宅したけど…。
もう海斗さんに会えないって…
そのまま目が覚めなくて良いって思って薬飲んだの」


「生きててくれるだけで本当に良かった」


「意識が戻ってた時、
お兄様、私のことを百合さんって呼んで泣いてたの。
お兄様にも、辛くて哀しいこと、あったのかも。
海斗さん、お兄様と喧嘩しないで?」


「真理子さん、どこまで優しいの?
あんな卑劣なことをしたヤツのことなんて、
思い遣らなくて良いよ」と手をギュッと握った。


「退院したらさ、俺、真理子さんの部屋に住もうかな?
或いは、爺ちゃんの家に来ない?
1人だと心配だから」


「良いの?
本当に私、海斗さんと一緒に居て良いの?」


「勿論だよ。
さっきの返事して?
真理子さん。
結婚を前提にお付き合いしてください」と、
もう一度指輪を私に差し出す。


私は「お願いします」と頭を下げた。


「右手って思ってリーズナブルな指輪にしたけど、
左手に嵌めたい。
真理子さんは俺の彼女ってことを、
みんなに判らせたいから」


そう言って、海斗さんは私の左手の薬指にそっとルビーの指輪を嵌めてキスをした。

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