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揺れる心
第5章 油断
個室だったのと、
大先生の力もあって、
その日、海斗さんは病室に泊まってくれた。

予備のベッドを隣まで動かして、
手を繋いで寝てくれた。


時々、うなされて声を上げてしまって目を覚ます度に、
優しく髪を撫でて、
額や頬にキスをしてくれる。


「大丈夫だよ。
1人にしないから」と言って、
何度も「愛してる」と囁いてくれた。


もう1日様子を見てから退院することになった。
海斗さんは病院を休んで付き添ってくれていた。


実家の母が、帰り用の着替えなどを持ってお見舞いに来てくれたのは有り難かった。
何しろ、パジャマ姿で救急車だったので、
靴も服も何も無かったけど、
それを海斗さんにお願いするのも難しかった。


「仕事着より普段用のゆったりしたのを持ってきたわ。
これで大丈夫だと思うけど…」と言いながら、
引き出しに入れてくれる。


「あなた達、入籍だけしちゃえば?」と母が呑気に言うので、
2人で顔を見合わせてしまった。


「ほら、
真理ちゃんも36歳でしょ?
ぐずぐずしてると出産が大変になるし。
再婚だからそんなに大きな披露宴もしなくて良いなら、
家族だけでお食事会するとか、
お写真だけでも良いんじゃない?
勿論、海斗さんのお家の意向もあるだろうけど」


「あの…出来たら一緒に暮らしたいと思っています」と海斗さんが言うと、

「良いんじゃない?
真理ちゃんのマンションは充分広いし、
そのまま海斗さんが引っ越して来たらどうかしら?」と笑う。


「でも…大先生がお一人になってしまうわ?」

「あら。
それは心配ね?
だったら、真理ちゃんが海斗さんの処には入れば?
海斗さん、脳外に入ると、
オペとかで忙しくなって1人の時間が多くなって寂しいから、
同居は良いんじゃない?」


「えっ?」


「あら?
昨日、脳外科に進みたかったって言う話をしてたでしょ?
それで、安藤先生とパパがあれこれ話をしていてね、
パパの大学の教室、ちょうど空きが出来たからすんなり海斗さん、入れそうなのよ?
最初はペーペーで大変でしょうけどね?」


たった1日で、色々なことが進んでいた。


「それでね。
これはうちの希望なんだけど、
海斗さん、婿養子になって貰えないかしら?
考えてみて?」
と思い掛けないことを言われてしまった。
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