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揺れる心
第7章 安藤家の崩壊と再生
この日、陸也さんの声を聴くことは殆どなかった。

怒り狂うお母様を奥に連れて行ったまま、
客間に戻ることはなかった。


大先生は、
「やっと言えたな?」と静かに言うと、

「本当は、海斗を授かった時に言うべきでした。
あの頃はまだ、
妻の実家の後ろ盾も必要だと思ってしまって。
愚かでした」と笑った。


「お恥ずかしい処を初対面で晒してしまいましたが、
あれが居なければ、
真理子さんに酷いことを言うような者も居なくなります。
私は…大学を辞めて、
父の病院にでも雇って貰おうかな?
ちょうど海斗の席が開くだろう?」と戯けた顔で言う。


「あの…、
お父様って呼ばせて頂いても宜しいですか?
不束者ですが、
どうぞ宜しくお願い致します」と改めて頭を下げた。

海斗さんは、まだ口を閉ざしたままだった。


「なんて呼んだら良いのかも判らないくらい話をしてなくて。
やっぱり、父さんかな?
ずっと嫌われてると思ってたから」


「嫌いなわけ、ないよ。
大切な百合子さんとの間の忘れ形見だぞ?
ただ、妻が恐くてね?
般若みたいだろう?」と苦笑する。


「確かに般若みたいだった。
俺、つねられたり、叩かれたりしたもん。
おっかないから近づけなかった」


「本当に弱くて、
守ってやれなくて済まなかった。
ダメな父親だったよ」


「あの…だったら、これから親子を始めれば良いと思いますよ?
離れていた分、たくさん一緒に過ごして、
たくさん話をすれば良いと思います。
だから…宜しくお願いします」




和やかな空気が流れる。

そして、お父様はひとまず、
最低限の荷物を纏めて一度大先生の処に移ってから今後のことを考えるという話をしていると、
陸也さんが戻ってきた。


「あまりにも興奮状態なので、
鎮静剤を使って休ませました」と言った。

そして、とんでもない話を続けた。


「この結婚、白紙に戻しませんか?
僕も真理子さんを愛していて、
結婚したいと心から思っています」

「えっ?」

「大阪でも愛し合っただろう?
海斗より先に」

「…」

「やめろよ!」と海斗さんがお兄様に詰め寄る。

「セカンドバージンっていうのかな?
出血するくらいご無沙汰な状態で、
大変だったよ」


その瞬間、海斗さんのお父様が、
お兄様の頬を打った。
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