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揺れる心
第7章 安藤家の崩壊と再生
お兄様の陸也さんは、
暫くお母様と一緒に暮らしていた。

大先生の家に来ることもなかった。

どうされてるのかなとは思ったけど、
なんとなく口に出来ないまま、
海斗さんは大学の医局での勤務が始まって、
帰宅時間も遅い日が続いていた。


そんなある日、
仕事が終わったお父様が珍しく陸也さんを伴って帰宅した。

海斗さんはその日も遅いようなので、
大先生、お父様、陸也さんと食卓を囲んで、
本当に何気ない家庭料理を静かに頂いて、
リビングで思い思いの飲み物を飲んでいた時に、
ふと、お父様が話始めた。


「海斗には辛い話だから聞かせられないけど、
真理子さんにだけ、少し話を聴いて欲しい。
真理子さんは聡明で…
この家族を結びつけてくれる人だから、
知っておいて欲しいから…。
百合子さんのことだ。
私と百合子さんは、この家で兄妹のように育った。
本当に可愛くて素直で大人しい、優しい子だった。
私は結婚して独立することになり、この家を出た。
女性というのは、亡くなった母や百合子さんのように、
優しくて穏やかで、居心地の良い空間を作って癒やしてくれるものだと思っていたら…妻は違っていた。
妻はいつも苛々していて、
周りの人と自分を比べて常に勝とうとするように威圧的で。
家のことも一切しない。
私は家に帰るのが辛くて、
ついついこの家に立ち寄ってしまうようになっていたよ。
そんな時も、百合子さんは静かに微笑んで、
温かい飲み物や食べ物を用意してくれた。
そして、その席に…斜め前に座って、
綺麗な布に何やらチクチクと針を刺したり、
編み物をしていたよ。
妻が陸也を産んだら、
もう跡取りは出来たとばかりに、
公然と妻は浮気をするようになったよ。
まあ、私が男性として役に立たなくなったから、
仕方なかったのかもしれない。
何しろ、あんな般若を前にしたら、
萎縮してしまって、
こいつがちっとも元気にならなくてね?」と、
下を向いてクスクスと笑う。


「だから余計に家には帰りたくなくて、
理由をつけてはここに戻ってきてた。
母の体調が悪いとか言ってね?
それで、ここで散々お酒を呑んでは深夜に帰宅して、
別の寝室で寝るような毎日だった。
そんな生活が何年も続いたよ。
百合子さんは適齢期になっても嫁に行く気配はなかった。
身体が弱い母を置いていけないからと笑ったいた」
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