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揺れる心
第8章 突然のさよなら
「えっ?」

顔に掛けられた布をお祖父様がそっと外すと、
穏やかな優しい顔で眠っている。

「海斗さん…?
そんな…」

手を伸ばしてそっと頬に触ると、
冷たくて少し強張っているようだった。

「どうして…?」

呼吸が苦しくなってしまう。


「真理子さん、病室に戻ろうか。
ここは寒過ぎる」

「いや。
ここに居たいです」

「ダメだよ?
真理子さんも身体がまだ、本調子じゃないから」

「だって…」

「頼むよ。
これで真理子さんに何かあったら、
私は海斗から叱られるよ?」と手をギュッと握るお祖父様の顔を見上げると、
涙が溢れていた。


「判りました…」と言って、
病室に戻って、車椅子からベッドに移動して貰う。


涙が溢れてしまって眠れそうにないと思ったけど、
多分、点滴に入れて貰った薬のおかげでいつの間にか眠りについていた。


その後は、正直、何をしていたのかも、
どれくらい時間が経ったのかも判らなかった。

食事も喉を通らない。
周りに人が居る時はなんとか平静を保とうとしていたけど、
夜になると眠れない。
震えてしまう。
少し眠っては悪夢でうなされてしまい、また目が覚めてしまう。


葬儀は密葬になったけど、
私は出席出来る体調ではなく、
病院で見送ることになった。


少し体調が落ち着いたところで、
伯父の病院に転院した。


数値的には回復したはずだけど、
力が入らなくて、
起きているのも辛いし、
眠っているのか起きているのかもよく判らない日が続いて、
退院することになった。


海斗さんと暮らしたお祖父様の家に戻るのも辛かったけど、
現実と向き合わないといけないような気もした。

ただ、「無理はしないように」とお祖父様に言われて、
ひとまず実家に戻ることにした。


あの日のことは新聞報道もされていた。

高齢者のブレーキとアクセルの踏み間違え。
海斗さんが私を庇おうとして、跳ね飛ばされたこと。
ほぼ、即死だったこと。


そんなことが自分達に起こるなんて思いもよらなかった。
そして、流産してしまったことも最初は受け入れられなかった。


でも、私のことを気遣う両親のことを見てるのも辛くなってしまって、
放置していたマンションで独りで暮らすことにした。




私の時間は、
あの日、止まってしまったようだった。
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