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揺れる心
第1章 雨の日の出会い
「うわ。
凄いな。
こんなに?
真理子さんは食べないの?」

「えっ?」

「あれ?
真理子さんじゃなかったっけ?
カルテに、加藤真理子って書いてあったよね?」

「下の名前で呼ばれると思わなくて…」と、
紅くなってしまって、
その気まずさを振り払うように、
「披露宴でコース料理食べたから、
まだお腹空かなくて」と、
2人分の焙じ茶を出しながら前に座った。


「いただきます」と両手を揃えて言ってから、
かなりの速さで平らげていく。


「あの…噛んでますか?」

「ああ。
早喰いでよく怒られたな」と言いながら、
ご飯をお代わりしてペロリと食べ終わると、
手を揃えて「ご馳走様でした」と言った。


あまりの速さに、声を立てて笑ってしまった。


「このご飯なら、
診察代、要らないな。
いや、それ以上だな」と笑う。

「お口にあって、良かったです」


「さっき、言うの忘れたけど、
水泳すると、首から肩甲骨にかけての筋肉の強張りとか、緩めること出来るって勧めようと思ったんです」

「あの…私、泳げないんです」

「えっ?全然?」

「はい。全然」

「んー。水の中でウォーキングするとか、
プカプカ浮いてるだけでも良いんですよ?」

「水着も持ってないですし、
お水に顔をつけるのも怖くて…。
プールの塩素の匂いも苦手です」

「そうなんだ。
俺なんて、水泳好きで、
時間見つけては泳ぎに行くけど。
海とかも好きだな」

「海は…ジョーズ来るから怖いです」

「日本の海は滅多に来ないけど。
ふーん。そうか。
じゃあ、他のことを考えないとな。
仕事でパソコン使うのも悪くする要因かな。
他に何か、細かいこと、やってないですか?」と言われて、
下を向いてしまった。


「刺繍とかキルトをやってます」

「刺繍?キルト?なんですか、それ?」と言うので、
「例えば、それです」と、ソファに掛けているキルトを指さした。

一色の無地に見えるけど、何枚もの布を繋いで、
更に同色の糸で縫いとるように刺繍をした大作で、
大きな賞をいただいた作品だけど、
普通にソファの上掛けにしていた。

使わないと作品の意味がないと思ってるからだった。

近くで見て、あまりの細かさに唸っているので、
笑ってしまったけど、
「笑い事ではなくて、これは首肩背中が凝るだけじゃなくて、
眼精疲労も」と怒られた。
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