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私立煩悶女学園の憂鬱。
第1章 水球部 編 (1)

私と約束した時刻通りに黒川君はプールサイドにやってきた。既に準備が
出来ている私と同じように、彼もアップは済ませてきたと言い、さらに
「愛、もう一度確認しておきたいんだけど」と聞いてきた。
停電事件の後からは、2人だけの時には彼は私の事を名前で呼ぶようにな
っていた。私の方が先輩なのに、そう思っても名前を呼ばれる度に口元が
緩みそうになるのを我慢していた。
確認とは、私から言い出したこれからの勝負のことだ。
「別にいいけど・・・私が勝てば、黒川君は私専属のコーチになるってこ
と。他の女子部員を個別に指導することも続けて欲しいけど、私のコーチ
を最優先して欲しいの」
「全国大会を目指すのが最優先だろ?」
「両方よ。両方共最優先して」
私の言葉に彼が頷く。
全国大会に行くことが最終的な目標じゃない。そこで1つでも多く勝って
、大学の強豪校にスカウトされたい。そして日本代表にまで上り詰めたい
。それが今の私の目標だった。
これは白石コーチにも相談した。けれど全国大会を目指すのが目標で、個
別に指導するのは無理だと言われてしまったのだ。

「それは愛が勝ったら、の話だよね。俺が勝ったら、なんだっけ?」
「・・・好きにして良いって・・・言ったけど」
「むふふっ、好きにして良いんだね、愛!」
黒川君はアニメのいやらしいキャラの様な目をして、手の平を閉じたり開
いたりして近づいてきた。
「えっち!」
私は持っていたタオルを彼の顔めがけて投げつけた。彼は素早く手で払う
ようにして受け止めると、いつもの爽やかな目に戻っている。
「そうじゃなくて、黒川君の好きな時間と練習で指導してくれればいいか
らってこと!」
「分かってるよ。俺の好きな練習方法で良いんだな。それは楽しみだ。で
も結局どっちにしても同じことだと思うけど」
確かに似たようなものかもしれない。しかし、私が勝てば他の女子に対し
て優位に立てることがある。黒川君を独占、とまではいかなくても私の希
望で一緒にいられる時間は確実に増えるだろう。
「そうでもないんじゃない?勝った方にメリットはあるでしょ?」
「そうかな・・・」
なんとなく腑に落ちなさそうな顔の黒川君を無視して言った。
「さあ、始めましょ。手加減してね」
「それは無いな」
ニヤッと笑った彼と一緒にプールに入った。
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