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爛れる月面
第3章 広がる沙漠
「そ、そうなんだ……」

 紅美子が圧倒されていると、

「探してきます」
「……は?」
「長谷さんに任せておいたら、大変なことになるってことがわかりました。私が、色々探してきます」
「え、いや、べ、別にいい……」
「いーえっ、探してきますっ。長谷さんもパンフレットとか見たら心揺らぎますよ、きっと。女の子ですもの」

 女の子、と言われて一旦は失笑させられたが、

「長谷さんが渋るんなら、徹さんのところに持っていきます」
「やめて」

 とんでもないことを言い出される。

「徹さんのほうがまだ、話が通じそうです。多少、変わってても」
「だいたい光本さんが突然そんな話をしても、徹だってビックリして──」
 そうは言うものの、徹のことだ、こんにちは、何のご用ですか、と、紗友美にまともに取り合ってしまう姿が目に浮かんで焦ったが、「……てか、よく考えたら光本さん、徹、知らないじゃん」

 幸い、冷静になることができた。

「会わせてください」
「そんな理由では会わせたくありません」
「あー、他の女に会わせるのがイヤなんだぁ?」

 紗友美が両手を拝むように合わせて口元に当て、目を逆三日月にしたから、

「別に、イヤじゃない」ことさら澄ましてみせ、「光本さんごときに徹を取られる気がしない」
「やっべぇ、めっちゃイラっとくる」

 噴いた紗友美がデスクを叩く。

「ねー、会わせてくださいよぉ。今度いつ東京来るんですか?」

 つられて表情を崩していた紅美子だったが、次の伝票を手に取ろうとする途中で固まった。

「……、……また、機会があったらね」
「明日なんですね」

 しまった、と項垂れる。

「それどころか、もしかしたら今夜かもしれないですね」
「明日、来るんだけど……ね、光本さん、徹は何のヘンテツもない貧乏研究員。そんなわざわざ見に行くようなもんじゃない」
「えー、でも会いたいです。ていうか、徹さんの前で長谷さんがどんな感じなのかが見たいです」
「なんじゃそりゃ」
「待ち合わせ場所さえ教えてくれれば、偶然を装って声かけます」
「ちょっとぉ、なんでそんな仕込みをする必要が……」
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