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爛れる月面
第4章 月は自ら光らない
 紅美子が歩き始めると、早田も並んで歩き始めた。

 尾形精機は、一ヶ月前にバドゥル・インターナショナルの傘下企業として経営権が譲渡された。呑み込まれるや親会社名義の人間が続々と長職にとって変わり、短期間のうちに業務フローが一新されていった。その『改革』のさなか、井上の予告通り、紅美子も紗友美も契約打ち切りとなった。係長や経理担当、社員達がその後どうなったのかは知らない。

 派遣元に返された二人だったが、紗友美はすぐに次の派遣先が決まった。しかし紅美子ほうは、なかなか決まらなかった。あと半年程度で結婚を控えており、徹の勤務地によっては住処を変えなければならないから、そう長期では働けないのが理由だった。だから特に焦りはない。とはいえ収入ゼロというわけにもいかず、母親の店の常連客のツテで、クリーニング店の窓口と弁当屋の仕込みのパートを掛け持ちしている。

「……笹倉、元気?」

 平日のこのあたりは業者のトラックや軽ワゴンがたまに入ってくるものの、人通りは少ない。車道にはみ出して横並びで歩きながら、早田が問いかけてきた。

「元気だよ。今ちょうど、半年過ぎての選考? みたいなのがあるらしくて頑張ってる」
「東京には戻ってこれそう?」
「よくわかんないけど、一応、トップに近いんだと思う。一番だからって、希望通りになるかは知らないけど」
「おー、やっぱすげえな。トップ取るつもりないのにトップになっちゃう奴、いるよなー。昔からそうだ」
「別に私、東京じゃなくたっていいんだけどね」

 低層ビルの狭間に渦を巻いて吹き込んでくる風に髪を乱されて、紅美子は耳の辺りを抑え、歩む先のアスファルトを見ながら言った。
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