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爛れる月面
第4章 月は自ら光らない
「笹倉は、何も知らないよな?」
「バーカ」
 紅美子は大袈裟にふきだして、「徹が知ってたら、今こうやって平和に歩いてるわけないじゃん」
「そりゃそうだ。オバカな質問だった」自嘲した早田は、「……なぁ、長谷」

 改まって、紅美子に呼びかけた。

「なに?」
「……もう、やめとけよ」

 聞いても、紅美子は何も答えなかった。歩き慣れた地元の者でなければ、絶対に方向がわからなくなる直角には交差しない細道を進んでいく。

「長谷」

 ずっと黙ったままいる紅美子へ早田がもう一度言うと、

「聞いてるよ」

 桜橋通りに出た。しばし歩道を並んで歩いたが、最後の信号を渡ると、車道もアスファルトからタイル敷きとなり、二人は道の真ん中へと出た。名にし負うとおり桜橋に続く道だが、突き当りは階段になっており、ほぼ車が来ることはないことを二人とも知っていた。

「せっかくの休みなのに、そんなこと言いにきたの?」
 そう問うておきながら、紅美子は階段のふもとで身を縮ませて、「……ちょ、公園から行くの失敗だよ。さっむいんだけど。髪もボサボサんなるし」

 隅田川で冷やされた風が堤防を越えて吹き込み、二人をモロに叩く。頭上の首都高を車が駆け抜けて、それがまた、風を複雑に渦巻かせるらしい。

「このままだと、大変なことになるよ、お前」

 しかし早田は、風のことも、駅への道順についても触れずに諭してきた。

 脇道を行けば言問橋に出られたが、紅美子は墨堤通りを跨ぐ踊り場までの急階段を、ブーツの底を鳴らして登っていった。桜橋が見えてくる。休日は人の姿が多い公園は、平日のこの時間、この気候では閑散としていた。今日は人が少ないことを、早田は知っていたのかもしれない。

「……てかさ、なんであんたにそんなこと言われなきゃなんないの。正義感?」

 高速道路の真下であることと、早田以外いないことが、紅美子の口調を荒くさせていく。
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