この作品は18歳未満閲覧禁止です

- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
爛れる月面
第4章 月は自ら光らない

斜め先を見て、考えを巡らせながら話している。
「ほーら、やっぱ女のほうが、中身をきちんと見るんだよ。なんなの、男って」
「……なんなんだろうな」
やっと、井上が知らないこと、答えられないことを訊いてやったことが妙に誇らしく、
「あんた、よく私に色々難しいこと、エッラソーに教えるけどさ。これはわかんないんだ? 私の訊くことは何でも答えますよーぶってるくせに」
得意げな顔で、ここぞとばかりに煽ると、井上は顔を正面に戻して紅美子を見た。
「……え、怒ったの?」
悪虐な眼光が、宿っているわけではなかった。何かを伝えようというよりも、すぐ前の女に何かを見出した、そんな目をしている。
「いや……、君の言う通りだ。君の知らないことは何でも知っていると思うのは、とんだ思い上がりだ」
そして、自身を覆い始めていたものを振り払うかのように、「もう食べないのか? 僕はもう、腹いっぱいだ。明日の朝に食う」
折詰に板敷で蓋をする。
「あ、じゃあ私の分も食べていいよ。私ももう入らない」
紅美子は井上の折詰を開け直し、空いている場所に自分が残したものを移していく。
寿司を箸で挟みながら、何だか、してはならないことをしてしまった気持ちになった。こんな思いは、半年間で覚えがない。不在だった一か月、栃木に行ったし、紗友美と式の準備もした。こんなことなら、徹や結婚の話をして、井上の嫉妬を焚きつけたほうが、よっぽどよかったように思えた。
「……あっ! 今、気づいた」
だから紅美子は、ことさらな感嘆詞を冒頭に付け、「あんた、洗濯ってどうしてんの?」
「ん? もちろん、干してる時間も乾燥機を回している時間もないからな。ほとんどがクリーニングだ」
「……シーツは?」
「何を気づいたのかわかった」井上の髭が楽しげに曲がり、「もちろん、クリーニングだ」
「ちょ……」
「ほーら、やっぱ女のほうが、中身をきちんと見るんだよ。なんなの、男って」
「……なんなんだろうな」
やっと、井上が知らないこと、答えられないことを訊いてやったことが妙に誇らしく、
「あんた、よく私に色々難しいこと、エッラソーに教えるけどさ。これはわかんないんだ? 私の訊くことは何でも答えますよーぶってるくせに」
得意げな顔で、ここぞとばかりに煽ると、井上は顔を正面に戻して紅美子を見た。
「……え、怒ったの?」
悪虐な眼光が、宿っているわけではなかった。何かを伝えようというよりも、すぐ前の女に何かを見出した、そんな目をしている。
「いや……、君の言う通りだ。君の知らないことは何でも知っていると思うのは、とんだ思い上がりだ」
そして、自身を覆い始めていたものを振り払うかのように、「もう食べないのか? 僕はもう、腹いっぱいだ。明日の朝に食う」
折詰に板敷で蓋をする。
「あ、じゃあ私の分も食べていいよ。私ももう入らない」
紅美子は井上の折詰を開け直し、空いている場所に自分が残したものを移していく。
寿司を箸で挟みながら、何だか、してはならないことをしてしまった気持ちになった。こんな思いは、半年間で覚えがない。不在だった一か月、栃木に行ったし、紗友美と式の準備もした。こんなことなら、徹や結婚の話をして、井上の嫉妬を焚きつけたほうが、よっぽどよかったように思えた。
「……あっ! 今、気づいた」
だから紅美子は、ことさらな感嘆詞を冒頭に付け、「あんた、洗濯ってどうしてんの?」
「ん? もちろん、干してる時間も乾燥機を回している時間もないからな。ほとんどがクリーニングだ」
「……シーツは?」
「何を気づいたのかわかった」井上の髭が楽しげに曲がり、「もちろん、クリーニングだ」
「ちょ……」

