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爛れる月面
第4章 月は自ら光らない
 マンションにやってくると、ベッドのシーツは毎度新しかった。クリーニング店で働いているだけに、「痕」がたっぷりと残っているシーツが、カウンターに出されて店員の目に晒されている様子が、生々しく想像できる。

「いいだろ、別に。君がつけたものだってわかるわけじゃない」
「に、してもさぁ……」

 頭を抱えると、井上が笑う。

 言われた通り、どこの誰とも知らない店員に対する羞恥はない。
 笑い声に、胸が安堵でじんわりと擽られている。

「明日の夜の便でインドへ行く。空港に向かう前に、ちゃんとクリーニングに出しておくさ」
 井上はベストを脱ぎながら言った。「寝室に行こう」


   *   *   *


「……まさかってヤツ?」

 紅美子はソファで脚を組み、タバコの煙を口からも鼻からも吐き出した。隣では、徹が恐縮をしている。

 ──クリスマスに一番近い週末、栃木を訪れた。迎えに来てくれた駅に隣接したパチンコ屋の前を通りがかると、寒空の中、サンタクロースの格好をした女の子が震えながら店のチラシを配っていた。しかも集客を狙ってか、ズボンではなく上衣から生脚が丸出し。レッグウォーマーくらいは履かせてやればいいのにと気の毒に思いながら、そして、徹の目線の行方を常に監視しながら、

「そういえばさ、徹って、エプロン以外に好きなのあるの?」
「……どういうこと?」
「私に着てほしいやつ。もちろん、アレするときにだよ?」

 バス停は二人以外、誰も待っていなかったが、徹は頬を赤く染め、

「いや、べつに……、エ、エプロンに昂奮するわけじゃないよ」
「そうなの?」
「だって中身のほうが好きだから」
「徹が私のカラダ大好きなのは知ってるけど」
「じゃなくて、クミちゃんが」

 何でそんなこと訊くの、と返されれば、足元を掬われかねない危険な話題だったが、彼の回答に和むあまり、
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