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爛れる月面
第4章 月は自ら光らない
 畳みかけられた徹が唾を呑み、

「その……クミちゃんはいつもキレイ、で……、あんまりこ、こういう、カ、カワイイ? カ、カッコしない、から……、それが見られるのは、俺だけだと、思って、選んだ、んだ……けど、ごめん」

 噛みまくって言うと、紅美子は、すぅ、と息を吸い込んで、

「自分で着せといて、オドオドしない!」
 彼の腕を叩き、ついにこらえ切れず、ふきだしてしまった。「……ていうか、こんなすぱすぱタバコ吸ってるメイドさんなんかいないよね」

 ソファから身を浮かせてタバコをテーブルの灰皿に圧し潰すと、スカートを翻して回れ右をし、徹の膝の上に割座で跨る。

「どうだい? 最高のオンナが、最高のカッコして腕の中にいるよ。幸せでしょ?」
「うん」
「はい、完っ全にクロです。もう今後、徹は秋葉原出禁ね。必要なものがあったら、私に言ってください」
「う、うん……」
「てか、めっちゃ見る。新たなオカズにしちゃう?」
「……だめ、かな?」
「するんかい」
 肩に両手を置き、「もちろんいいけど、写真には撮ったらダメだよ? 頭にしっかり焼き付けて」
「うん。……あ」

 そう言うと、徹が何かを思い出したようだった。

「どうしたの?」
「うん……、年末に忘年会がてら研究発表の打ち上げがあったんだけど、前にクミちゃんが来てた時にさ、同期の一人がバス停で見かけてたみたい」
「え、誰にも声かけられなかったよ?」
「クミちゃんがあんまりキレイだから、びっくりして声かけられなかったって。でも、そん時……、二人でいるとこの写真、撮られてたらしく」
「はぁ? 隠し撮りじゃん」
「ううん、ぜんぜん変な写真じゃなかったよ。でも、飲み会の時にそれをみんなに見せられちゃって……、すごい冷やかされた。みんな『美人だ』ってびっくりして、羨ましがってた」
「んー……」

 正直、隠し撮りされ、かつ皆の目に晒されたのはいい気分はしない。だが、その時の徹は間違いなく、「ええ、美人です」と素で答えている様子が想像できて、
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