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爛れる月面
第4章 月は自ら光らない
「指導員の人からは、こんな美人の恋人がいたら、研究が疎かにならないか心配だ、ってからかわれちゃった」

 そう回顧する彼が誇らしげに見えたから、むしろその変化を大事にしたく、これからも一緒に働くことになるだろう同僚たちを非難するのはやめておいた。

「そんなご心配は無用です、って言ってやれ。徹は、仕事を疎かになんかしないよね?」
「うん。クミちゃん、キスしていい?」
「いきなり疎かになりそうなこと言わないでよ」紅美子は肩から首へと手を回し、「どうぞ?」

 唇が触れた。

 ここのところ、順番が定まってきたと思う。上下の唇をはみ合わせ、お互いを濡らしてから舌を差し伸べれば、必ず向こうもやって来ている。唇を閉めて音を鳴らすタイミングも、言葉も合図もないのにピタリと一致する。

「ご主人様……、キス、好きですね」
「うん……」

 細糸を引いて離すと、いつのまにか、徹の手が自らの下腹で左右に割られた太ももへと添えられていた。

「……中、気になりますか、ご主人様」
「えっと、……うん」

 スカートの中に手が入り、腰骨からヒップへと降りていく。しかし指先がいくら下ってもショーツの縁は見つからず、

「でもすみません。紅美子、ご主人様のご期待に添えていないです。てっきり、ボンテージか超ミニだと思っていたので、すっごいイヤラしいの履いちゃってます。こんなことなら、リボンのついたフリフリのやつにしたらよかったと反省してます。持ってませんが」

 そう告白しても、徹は、もはや聞き取り辛い声で、うん、と答えるだけだった。

「……なんか、私だけこんなカッコして、『ご主人さまぁ』とか言ってたらアホみたいじゃん。せっかく着てあげたんだから、徹もちゃんとノッて」
「ノる……?」
「もっとご主人様らしく。『紅美子、スカートの中を見せなさい』、的な?」
「う……、クミちゃん、中見てもいい?」
「ご主人様は、クミちゃん、なんて呼ばん」
「でも……」
「紅美子、って呼んでください、ご主人様」
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