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爛れる月面
第4章 月は自ら光らない
 リビングへと進み、キッチン前の井上に背を向けたまま、

「呼び出しといて、帰って来れないなら、連絡の一つでも寄越すべきだと思う」
「ああ、すまん。心配させたな」
「してない。でもあんたが死んだら、このマンションは誰のものになるのかなー、とは思った」

 背後でダイニングの椅子が引かれ、軋む音が聞こえる。

「……もちろん、妻と息子たちの物になる」
「娘みたいな愛人には何も無しかい。ま、いいけど。……あ、まだあった。引換券があったから、クリーニング屋に生き恥も晒しに行ってきたよ。シャツとかはクローゼットの中に仕舞ってある。どうやら綺麗にしてくれたシーツは、洗濯機の上に置いて──」

 洗濯機の収められているバスルームのほうを指そうと振り返ると、てっきり、井上はチェアに悠然と座り、ネクタイでも緩め始めているのかと思ったが、横掛けに座っても自立しているのが難しいかのように背凭れを頼り、目の間を摘まんで話を聞いていた。

「……どうした?」

 言葉が突然切られて、井上が顔を上げる。相変わらず、スタイリッシュなスーツを見事に着こなしている。しかし、明るい中で見た井上は……乾いて見えた。インド帰りのせいで連想させられたわけではなく、憔悴と言う言葉が、井上の生気を奪っているかのようだった。

「疲れてんでしょ、とりあえず寝たら? 起きてから食べればいい。冷蔵庫に入れとけば……やっば、ラップもないや。でもまあ、置いといても悪くはならないと思う」

 フローリングに置いていたバッグを肩にかける。

「帰るのか?」
「うん、そろそろ終電やばい。今日、ママに連絡入れてないし」

 伝えたかったことは、先送りにした。今から話をしていては、確実に終電の時間を越えてしまう──というのは、口実でしかなかった。

 こんな井上に、話を切り出すだけの勇気は、到底出てきそうにない。
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