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爛れる月面
第4章 月は自ら光らない
「真面目な話、家政婦さん雇ったほうがいいよ。忙しいんだったら無理して呼ばなくていい。愛人にやらせると、こうやってブツクサ言うから」

 極力井上のほうを見ないようにして去ろうとする手首を掴まれた。立ち上がった井上が、後ろから抱きすくめてくる。

「ごめん、ほんともう時間ない」

 身を捩って逃がれようとする耳元で、

「愛人じゃない、って言ってたんじゃないのか?」
「いいじゃん、その話はまた今度。もう帰るから……」
「愛人でもなく、セックスフレンドでもない。風俗嬢でも家政婦でもない。じゃ、君はいったい何だ?」
「何でもいいでしょっ。離してっ」

 突然、後ろへと強く引かれる。肩からバッグが落ち、飛び出した携帯がフローリングを滑った。一切を無視した井上に、抱きかかえられもせず、乱暴に引きずられて寝室へと連れ込まれる。容赦なくベッドへと投げ倒されて小さく声を上げたが、それ以上の悲鳴は馬乗りで制された。コートの袷を強引にこじ開けられ、ボタンが一つ飛ぶ。中に入ってきた手が、力づくでセーターも捲り上げようとしてくる。脚をばたつかせるが、びくともしない。井上に覆いかぶさられたことは何度もあったが、こんなにも体重をかけられたことはなかった。かけないようにしてくれていたのだと気づき、かえって今の状況が懼しくなってくる。

「やめて……、いや、だ、から……」

 乱れた自分の髪が顔にかかり、視界が黒くぼやけていたが、リビングから射し込む灯りに輪郭だけを浮き立たせた影のどこを探しても、一毫の光も見つけられなかった。セーターもキャミソールもまくり上げられ、ブラも無理矢理にズリ上げられる。脚に腰を下ろされ、スキニーパンツのボタンが外されると、無理矢理に下裸へと剥こうとしてくる。
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