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爛れる月面
第4章 月は自ら光らない
「べつに、呼んだら来るんだから、普通にすればいいじゃん」
「……。そうだな」
「仕事、なんか、いろいろうまくいかないこともあるんだろうけど、私には何も助けてあげらんないし」
「そんなことは君に求めてない」
「だよね」

 話しながらベッドを降り、正面に立つ。

「私さ、セックスしかしに来てない。ここに」

 井上が顔を上げる。

「いや、そんなことはない。今日だって……」
「あんたが言ったんだよ? 私、セックスしかできないもん」
「……」
「私は何なんだ、って言われたって、わかんないよ」
「……そろそろ、決める頃だ」
「わかんない。少なくとも今日は無理。あんたのせい」

 揺るぎない決意と言うものは、多少傷ついたくらいでは、決して得られないものだと知った。

 いつか、とてつもない罰を受けるのだとしても──

「今日は……、もう、考えたくない」
 紅美子は井上の眼前まで進み、「仕事で嫌なことあったんなら、めちゃくちゃに犯していい。でもレイプはやだ。ちゃんと濡らして、気持ちよくして、……私を苦しめて」

 身を入れ替えるようにして、再びベッドに投げ出された。今度は、重みは感じない。顔中を髭に擦られて、貪られる。唇が離されると、紅美子もワイシャツのボタンを飛ばし、シプレの香りへ吸い付いた。絶えずどこかを吸い合いながら、井上も全裸になっていく。

「……連休も会ってたのか。よく見たらカラダじゅうがキスマークだらけだ」
「んっ……、そう、だよ。だ、だから……、ひとつやふたつ、増え、たって……ん!」

 喉元に小虫に咬まれたかのような痛みが走る。すぐ後に、ふんだんに濡れた舌で傷口が癒される。恋人は、印をどこにつけたか、逐一憶えているだろうか。とても頭のいい人だから、ありえない話ではない。もし、身に覚えのない場所に、内出血を見つけたら……。

「んあっ……!」
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