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爛れる月面
第5章 つきやあらぬ

「それプロポーズって言う? 宿題やってほしかっただけなんだけど」
「じゃ、本当のプロポーズは、いつ、どこでなんですか?」
そう切り返されて、紅美子は怯んだ。
「そんなの……、言う必要ないじゃん」
「正直に答えてくれなきゃ聞き取りになりませーん」
「これ聞き取りじゃない。尋問だよ」
「尋問でも拷問でも何でもいいです。ほら、さっさと吐きやがれ」
紅美子が腕組みをして渋い顔をすると、
「俺が栃木に行くことになって、クミちゃんに言ったんです。クミちゃんの家で」
隣から徹が言った。
まあ、そういう伝え方ならウソではないし、いいだろう。
「ほほう……、指輪の箱、ぱかっ、ってやりながら?」
「無かったよ指輪なんて。そんときは」
「なら、俺と同じ墓に入ってくれ、とか。味噌汁毎日作ってくれ、的な?」
「なんじゃ、そりゃ。そんなのされても伝わんない」
「えー、わかんねー。そんな言うなら、再現してくださいよー、ここでー」
「はぁ!?」
入社一年目は栃木へ研修に行かなければならないということは、大学の研究室の教授に薦められた時から聞いていた。職種については徹にとっての第一希望のはずなのに、その一点をもって受けるかどうかを悩んでいるのを叱咤し、入社試験を受けさせたのだった。内定が出た、と、徹が紅美子の家にやって来て、その時も母はおらず、座布団の上で話していたら彼が抱き寄せてきた。当時はまだべたべたとしない気質だったが、せっかくの目出度い日に拒むのはかわいそうな気がして、体の上に乗り上がり、栃木の家が決まったら行くね、とか、東京に戻れるように頑張って、とか、ときどきキスをさせてやりながら話していた。
「じゃ、本当のプロポーズは、いつ、どこでなんですか?」
そう切り返されて、紅美子は怯んだ。
「そんなの……、言う必要ないじゃん」
「正直に答えてくれなきゃ聞き取りになりませーん」
「これ聞き取りじゃない。尋問だよ」
「尋問でも拷問でも何でもいいです。ほら、さっさと吐きやがれ」
紅美子が腕組みをして渋い顔をすると、
「俺が栃木に行くことになって、クミちゃんに言ったんです。クミちゃんの家で」
隣から徹が言った。
まあ、そういう伝え方ならウソではないし、いいだろう。
「ほほう……、指輪の箱、ぱかっ、ってやりながら?」
「無かったよ指輪なんて。そんときは」
「なら、俺と同じ墓に入ってくれ、とか。味噌汁毎日作ってくれ、的な?」
「なんじゃ、そりゃ。そんなのされても伝わんない」
「えー、わかんねー。そんな言うなら、再現してくださいよー、ここでー」
「はぁ!?」
入社一年目は栃木へ研修に行かなければならないということは、大学の研究室の教授に薦められた時から聞いていた。職種については徹にとっての第一希望のはずなのに、その一点をもって受けるかどうかを悩んでいるのを叱咤し、入社試験を受けさせたのだった。内定が出た、と、徹が紅美子の家にやって来て、その時も母はおらず、座布団の上で話していたら彼が抱き寄せてきた。当時はまだべたべたとしない気質だったが、せっかくの目出度い日に拒むのはかわいそうな気がして、体の上に乗り上がり、栃木の家が決まったら行くね、とか、東京に戻れるように頑張って、とか、ときどきキスをさせてやりながら話していた。

