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爛れる月面
第5章 つきやあらぬ
 嘘ではないので紅美子の反駁が弱かったのを、ニヤリと笑った紗友美は察したようだったが、あまり掘り下げては来なかった。それはそれでこたえる。

「てことは、二人の思い出の場所は、長谷さんの部屋、ってことですかね」
「ま、まあ……、そうなんじゃん?」
「そっかー、部屋かー……」紗友美はボールペンの柄尻で頭を掻き、「ちょっとインスピレーション湧いてこないなぁ」
「そんなに無理して考えなくていいよ?」
「他にないですか? 付き合ってください、って告白した場所とか」

 徹は紅美子の方を向き、

「それもクミちゃんの家だね」

 と真顔で言う。

「そ、そうだね……」
「じゃ、初エッチの場所」
「それも──」
「おいっ!」
 いきなりだったので、徹の肩を掴むのが遅れた。「それ絶対結婚式に関係ない!」

 もはや紗友美は面白がっているのを隠そうとせず、

「徹さんは素直ですねぇ。何でも教えてくれそう。……長谷さんのこと、好きですか?」
「好きです」

 徹はもともと伸びている背を、更にまっすぐにした。

「即答ですね。どこが好きですか?」
「全部です」
「全部? 長谷さんだって人間ですから、出るモノ出るし、出すモノ出しますよ?」
「私、光本さんの前で何も出したこと無いけど?」

 脇から徹の前に顔を出したが、紗友美は紅美子を越えて覗き込むようにして、

「それでも好きですか?」

 と問うと、徹が、はい、と答える。

「……ちっ、なんかムカついてきたなー。もう丸裸にしてやらぁ。全部って言うなら、クミちゃんの好きなところ、一つ一つ、挙げていってください」
「ちょっ……」

 徹がすらすらと並べていく。さすがに真昼間のファミレスで、「カラダ」とは言わなかったが、紗友美の連想を喚起するようなことは言われた。徹が答えれば答えるほど、耳が焦げ落ちそうなほど熱くなっていく。
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