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爛れる月面
第5章 つきやあらぬ
 したたかに払う、なんてことはしないが、ほうぼうに伸びてくる手を把えては下ろさせながら訊くと、

「光本さんの質問に答えてたら……、これまでのクミちゃんのことを思い出して、あらためて、クミちゃんが愛しくなってる」
「……それ、光本さんの術中におもいっきりハマってる気がする」
「お願い、クミちゃん。夜まで待てない」
「んー……、でもなあ、徹のお母さん、突然来るかもしれないじゃん」
「今日はお華の出品会に行ってるから、夜まで帰ってこないよ」
「……。お父さんは?」
「お母さんいないから、ここぞとばかりゴルフバッグ持って──」
「早く言って!」

 徹に飛びついた。

 よりハマっていたのは、自分のほうかもしれなかった。紗友美の前で、徹が答えることすべて、恥ずかしかった。しかしそれはもちろん嬉しさの裏返しであり、仰向けになった徹に覆いかぶさり、尋問に答えた一つ一つへの感謝を、面と向かって言うのは面映ゆいので、キスを与えて伝え……ようとしたが、

「わっ……」

 やにわに徹が、紅美子のウエストにしがみついたまま、ゴロリと体勢を入れ替えた。

 今の扱いは、ちょっと乱暴だった。だが、徹が裾の乱れたベロアプリーツから伸びる脚を捧げ持ち、膝頭に口づけしてくると、焦らしてやりたい悪戯心よりも、質問に答えたことを体現しようとしてくる恋人への期待感のほうが上回った。

 早や、スカートの中が甘く疼いてきていたが、

「ひっ……!」

 予想に反し、遡ってくると思っていた徹の唇は、足先に向かって降りてきた。慌てて紅美子は身を起こし、

「ちょっ、何してんの」
「キス」
「見ればわか……、ひゃっ」

 踝を吸われて、またしてもこっぱずかしい声が漏れる。
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