この作品は18歳未満閲覧禁止です

  • テキストサイズ
爛れる月面
第5章 つきやあらぬ
「ねえっ!」
 流される髪を抑え、閉まった窓の向こうへ呼びかけた。「せっかく、愛人やってたんだからさ、一回くらい、『パパ』って呼んであげたらよかったね!」

 しかし井上は、耳に手を当てて「聞こえない」というジェスチャーをした。微笑んだ紅美子は、軽く手を振った。ハザードが消え、アウディが走りだす。つづら折りの尾根沿いの道を、テールランプが左右に動きながら小さくなっていき、やがて、見えなくなった。

 踵を返した紅美子は、速足で細道を登っていった。真っ暗なら危なかったが、見上げる先の建物の二階の窓が薄く地面を照らしてくれていた。自転車の前に来ると、携帯を取り出して彼にかける。絶えず電話の前で鳴るのを待っていたのかと思えるほど、鉄階段を昇っている途中で繋がった。

「……クミちゃんっ!?」
「徹、開けて」
「えっ?」

 ドアの前まで来ると、拳で思い切り叩いた。電話の向こうから、「えっ? えっ?」と慌てる声がする。

「ねー、いま、なに隠してんのー」

 横柄な口調で更に早く叩いていると、ドアが開いた。驚愕している恋人を押しのけ、中へと踏み込む。

「ど、どうしたの?」
「抜き打ち検査」

 紅美子は乱雑にブーツを脱ぎ、大股に進むと、髪を振ってきょろきょろと目線を巡らせ、身を屈めてベッドの下を覗いたり、カウチソファに置かれたクッションを除けたりしてから、

「……こんな一瞬で、エロDVDって隠せるもんなのか……」

 と呟いた。机の上にはノートパソコンと書籍が開かれており、仕事をしていたのは明らかだった。ドアを閉めて戻ってきた徹が、途中に拋たれていたバッグを拾い上げる。突然の事態に、何を話していいかわからないらしい。紅美子はコートを脱いで背凭れにかけると、カウチソファに座って脚を組んだ。
/254ページ
無料で読める大人のケータイ官能小説とは?
無料で読める大人のケータイ官能小説は、ケータイやスマホ・パソコンから無料で気軽に読むことができるネット小説サイトです。
自分で書いた官能小説や体験談を簡単に公開、連載することができます。しおり機能やメッセージ機能など便利な機能も充実!
お気に入りの作品や作者を探して楽しんだり、自分が小説を公開してたくさんの人に読んでもらおう!

ケータイからアクセスしたい人は下のQRコードをスキャンしてね!!

スマートフォン対応!QRコード


公式Twitterあります

当サイトの公式Twitterもあります!
フォローよろしくお願いします。
>コチラから



TOPTOPへ