この作品は18歳未満閲覧禁止です

  • テキストサイズ
爛れる月面
第5章 つきやあらぬ
「やっ……痕つくじゃんっ、やめてっ!」
「何もついて無いわよ。オキレイな背中ですこと」

 紅美子は鼻から強く息を吐き、腰を揺すって座り直した。

 頭上は、真上を向くほどに青みが増していく、透き通るような青空とはこのことだった。まもなくここを離れるゆりかもめたちが、春を唄いながら飛んでいく。

「ママ……」
「んー?」
「ほんと、大丈夫かな、私。変じゃない?」
「はぁ……」

 溜息をついた母は、

「大丈夫じゃなかったら、もうとっくに言ってるわ。娘の晴れ姿なんだから、親も一生懸命だよ」
「うん、そだね……。ありがと」

 まぁっ、と目を丸くして娘を見てくる。

「そんなガラにも無いこと言っちゃダメよ。雨が降ったら大変」
「ちょ、いま娘の晴れ姿って言ってくれたばっかじゃん」
「それは見た目の話。あーもう、黙ってさえいれば、美人で自慢の娘なんだけどねぇ……、性格まで私に似ちゃって、失敗しちゃったなぁ、子育て」
「娘の晴れの日に、失敗作なんてレッテル貼らないで」

 周囲を見回す。歩道を行き交う人が、自分たちに必ず目を向けてくる。とんだ見世物だな、と思いながらも、今日だけだからまあいいか、と一息つき、

「ね、ママ……」

 紅美子はまた、呼びかけた。
 失敗作、などと言ってしまったことが悔やまれていた。

「もぉっ、なんなのこの子はっ。じっと待ってられないの?」
「ありがとう」

 もう一度、心を込めて言った。着物の膝の上に揃えてあった母の手の甲を、純白のグローブで軽く握る。

「……ダメよクミ、『産んでくれて』なんてベタなこと言ったら。母娘揃ってボロボロになった顔で出ていきたいの?」

 母の笑い声は、最後は潤んで震えていた。紅美子も目尻が震えそうになるのを必死に我慢して頷き、

「……あー、それにしてもタバコ吸いたい」
「ばかっ、どこの世界にタバコふかして待ってる花嫁がいるのっ」
「たしかに」
 紅美子は大きく深呼吸をして、「でも緊張してきた」
「……大丈夫よ」
/254ページ
無料で読める大人のケータイ官能小説とは?
無料で読める大人のケータイ官能小説は、ケータイやスマホ・パソコンから無料で気軽に読むことができるネット小説サイトです。
自分で書いた官能小説や体験談を簡単に公開、連載することができます。しおり機能やメッセージ機能など便利な機能も充実!
お気に入りの作品や作者を探して楽しんだり、自分が小説を公開してたくさんの人に読んでもらおう!

ケータイからアクセスしたい人は下のQRコードをスキャンしてね!!

スマートフォン対応!QRコード


公式Twitterあります

当サイトの公式Twitterもあります!
フォローよろしくお願いします。
>コチラから



TOPTOPへ