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爛れる月面
第5章 つきやあらぬ
 橋に二つある円錐形のオブジェの奥側、そのゴールには人だかりができていた。ひときわ小さな人影が紗友美、その隣で礼装と和服でいるのが徹の両親。そして、ライトグレーの衣装で直立不動で立って待っているのが、徹だ。一人が人力車に気づくと、皆一斉にこちらに顔を向けてくる。枝分かれして川岸に伸ばされた架橋の片脚から桜橋に入る頃には、ぱらぱらと拍手も聞こえてきた。

「到着しましたー。下ろしまーす」

 橋の真ん中あたりに備えられたベンチの辺りで停めた車夫は、慎重に象鼻を下ろし、踏み台を用意すると動かないよう梶棒を抑えて母の方へと手を伸ばした。母はニコニコしながら車夫に手を引かれて人力車を降り、離れたところにいる徹の両親と、その周囲に向けて深々と頭を下げる。パンツスーツ姿の紗友美が、小走りでこちらへやって来た。

「光本さん、何なのこれ」
「徹さんをあのカッコで待たせてたら、結婚式だ結婚式だ、って、その辺に居た人、集まって来ちゃいました。みんな花嫁が来るのを待ってたんですよ」
「なに豪快にハードル上げてくれちゃってんの?」
「大丈夫です。……軽々と越えやがってこのやろう」

 群衆のざわめきには、「きれーい」とか「腰ほっそ!」という賛嘆が混ざっている。今日ばかりは自惚れてもいいかな、と紅美子は鼻先を上げてみせ、

「で、私はどうしたらいいの?」
「徹さんが手を引いて降ろしてあげる……ってさっきちゃんと説明したんですが」
 片手に手袋を捧げ持った徹は、直立不動のままだった。「……動かないですね。長谷さん、ちょっと呼び寄せてください」
「犬じゃないっての」
 紅美子は笑って、「……徹っ!」
 
 大きな声で呼ぶと、群衆の目線が新郎に集まった。徹は上半身は立っていた時の姿勢のまま、まっすぐこちらへ歩いてくる。

「徹、手」

 差し伸べた手を握られたが、まったくアテできそうにない。車夫も紗友美も、いつでも飛び出せるように身構える中、転ばないよう慎重に人力車から降りる。

「……ビックリした?」
「う、うん……」
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