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爛れる月面
第5章 つきやあらぬ

徹のすぐ傍らに立ったが、まだ、手を握られたままだった。
「あの、新郎の魂が抜けそうになってますけど、ここの使用許可もらった時間、あまりないんです」
紗友美が身を屈めてこまごまと動き回り、降りた拍子に乱れたドレスの裾を整えつつ急かしてくる。
「徹。手、離して」
「う、うん……」
「それから、肘、こっちに出して。ちゃんと光本さんに言われた通りにして」
「う、うん……」
徹は脇腹に手を添え、肘を横に突き出した。紅美子がその輪に手を入れる。
「う、うん、ばっかり。徹のためにドレス選んだんだから、ちゃんと褒めて」
「う、うん……。……夢みたい」
「……。うむ、いいだろう」
紗友美を振り返り、「引きずっちゃっていいんだよね?」
見栄えがする形に裾を広げてくれた紗友美が頷いたのを確かめると、紅美子は歩き始めた。慌てて徹も足を出す。人だかりの手前で一旦止まり、二人で礼をすると拍手が巻き起こった。群衆の輪の一角を崩すように進んだ二人が『双鶴飛立の図』の前でもう一度礼をすると、一段と大きくなる。
「ちきしょー、とんでもねぇベッピンさんじゃねぇか! ニーチャンなんかにゃもったいねぇ!」
顔を上げると、輪の後方から高齢の男のひやかしが飛んだ。徹は直立不動のままだったが、紅美子が上躯だけ振り返って、大きく頷いて「まぁまぁ」とブーケを動かすと、一同から笑いが起きる。一瞬見渡すことができた群衆の中に早田の姿を探したが、見つけることができなかった。何やってんだろう、あいつ。今度連絡してやるかと思っていると、二人の前に紗友美が戻ってきた。祭服を着た外国人の牧師を連れている。
「この人、本物?」
「私の家の近所の教会にいる、本物の牧師さんです。浅草の観光客に着せたわけじゃないですから、安心してください。十字架無しでもやってくれるそうです!」
「ヨロシク」
「あの、新郎の魂が抜けそうになってますけど、ここの使用許可もらった時間、あまりないんです」
紗友美が身を屈めてこまごまと動き回り、降りた拍子に乱れたドレスの裾を整えつつ急かしてくる。
「徹。手、離して」
「う、うん……」
「それから、肘、こっちに出して。ちゃんと光本さんに言われた通りにして」
「う、うん……」
徹は脇腹に手を添え、肘を横に突き出した。紅美子がその輪に手を入れる。
「う、うん、ばっかり。徹のためにドレス選んだんだから、ちゃんと褒めて」
「う、うん……。……夢みたい」
「……。うむ、いいだろう」
紗友美を振り返り、「引きずっちゃっていいんだよね?」
見栄えがする形に裾を広げてくれた紗友美が頷いたのを確かめると、紅美子は歩き始めた。慌てて徹も足を出す。人だかりの手前で一旦止まり、二人で礼をすると拍手が巻き起こった。群衆の輪の一角を崩すように進んだ二人が『双鶴飛立の図』の前でもう一度礼をすると、一段と大きくなる。
「ちきしょー、とんでもねぇベッピンさんじゃねぇか! ニーチャンなんかにゃもったいねぇ!」
顔を上げると、輪の後方から高齢の男のひやかしが飛んだ。徹は直立不動のままだったが、紅美子が上躯だけ振り返って、大きく頷いて「まぁまぁ」とブーケを動かすと、一同から笑いが起きる。一瞬見渡すことができた群衆の中に早田の姿を探したが、見つけることができなかった。何やってんだろう、あいつ。今度連絡してやるかと思っていると、二人の前に紗友美が戻ってきた。祭服を着た外国人の牧師を連れている。
「この人、本物?」
「私の家の近所の教会にいる、本物の牧師さんです。浅草の観光客に着せたわけじゃないですから、安心してください。十字架無しでもやってくれるそうです!」
「ヨロシク」

