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爛れる月面
第1章 違う空を見ている
 もう一度、今度は頬を吸われた。
 ずっと堪らえてきたのに、目尻からこぼれ落ちてしまったのかもしれなかった。

「約束するよ」

 塩辛さの意味を、幼馴染はきちんとわかってくれていた。


      *


 桜橋を照らす灯りが川面に不規則に揺らめいている。欄干とに挟まれて、徹に後ろからくっつかれていた。両手で柵を掴まれているから、腕に囲まれて、逃げ場がない。いまここで、キスをするつもりなのだろうか。

「見られてるよ」

 帰宅や犬の散歩で、多くの人が背後を通り過ぎていく。実際、さっき知らない老人に「お熱いねぇ」と冷やかされた。

「近所の人も通ると思うんだけど」
「見られたら、困る?」

 徹は更に紅美子の背に擦りつき、柵から離した腕を腰へと巡らせてきた。代わりに紅美子が欄干に手をかけ、寂寞としつつも美しい隅田川を眺める。

「……別にいいんだけどさ」

 別にいい。
 徹にしては、ムードのいい場所だ。プロポーズも、部屋じゃなくここでしてくれたらよかったのに。

 明日から、徹は栃木の研究所勤務だった。新入所の研究員には一年間の研修が義務付けられ、ここでの成果をもって修了後の配属が決まる。徹は松戸にある拠点を第一希望としていた。娘の結婚によって独り住まいになってしまう紅美子の母親のことも、頭にあっての希望にちがいなかった。当然のことながら、首都圏への配属は希望者も多く、狭き門だ。

「明日、何時の電車に乗るの?」
「五時ちょうど」
「五時ぃ!? 始発じゃん。だから今日のうちに移動したら、って言ったのに」
「平気だよ」

 たった一年間、しかも都外とはいえ同じ関東であるのに、徹が離れがたく思っているのは、もちろん感じ取っていた。だから今日は朝からずっと一緒に居てやった。指輪を買いに、目当ての店が出店している銀座へと赴いたが、これ、と思ったものがカタログでしか見れずに取り寄せになってしまうようだったので、現物があるという新宿の店舗まで繰り出した。わざわざ足を伸ばした甲斐あって欲しいものが手に入り、しかも調整要らずでぴったりと嵌まってくれたものだから、店を出るときから左手に付けたままでいる。

 夜灯りに照らし、改めて眺めていると、
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