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爛れる月面
第1章 違う空を見ている

「……もっと高いところのでもよかったのに」
「いいの、このブランド好きだから。私が紫好きなの知ってるでしょ?」
「気に入ってくれたなら、いいんだけど」
「うむ、気に入った」
値段からしてダミーストーンだろうが、ブランドの基調カラーである紫の石が填められている。存在感を主張しすぎず、消しもしない、ちょうどいいデザインだ。
「蝶々のやつも考えたんだけど、高かったし、なんつったってアレを私がしちゃったらさー、水商売感、おもっきり出ちゃうじゃん?」
「そんなことないよ。あっちも、とてもよかったと思う」
「でもさすがにあのデカさだと、毎日はつけれないよ? まず仕事では無理」
「それは困るな」
「だろー? いいじゃん、こっちのほうが。これで、ナンパされてもサッと左手上げればいいだけだし」
その時に為すのと同じく、紅美子は手の甲を前に向けて、顔の横へ差し上げてみせる。
「うん……。……クミちゃん、はしゃいでる?」
「む」
珍しく痛いところを突かれたので、「はしゃいでないよ。男除けができたからうれしいだけ」
と、知らず知らずのあいだに高くなっていた声音を意識的に落とした。
「効果あってほしいな」
腰に回った腕が強くなる。鬢の毛に吐息を感じ、気まずく欄干に置いていた左手を、徹の甲の上に重ねた。
「……徹は、女除けなんか要らないよね?」
「うん」
「ほんと?」
「うん」
「そんなこと言ってて浮気したらどうしてやろうかな」
「心配、なの?」
「……別に。徹はモテないからなー」
「モテてもモテなくても、絶対にしないよ」
耳の後ろに息を感じる距離で言われ、紅美子は立ったまま徹に少し体重を預けて凭れかかり、軽く身を揺らした。背中に感じる体温が心地いい。
「そんなのわかんないじゃん? すんごいエロい女とか現れたら、私のことなんか忘れるかも」
「怒らせようとしてるの?」
「怒るの?」
「怒る」
徹は片手を抜いて、左手の上から更に重ねた。「もし浮気したら、殺してくれていい」
突飛な発言に紅美子は両肩を上げてみせ、
「いいの、このブランド好きだから。私が紫好きなの知ってるでしょ?」
「気に入ってくれたなら、いいんだけど」
「うむ、気に入った」
値段からしてダミーストーンだろうが、ブランドの基調カラーである紫の石が填められている。存在感を主張しすぎず、消しもしない、ちょうどいいデザインだ。
「蝶々のやつも考えたんだけど、高かったし、なんつったってアレを私がしちゃったらさー、水商売感、おもっきり出ちゃうじゃん?」
「そんなことないよ。あっちも、とてもよかったと思う」
「でもさすがにあのデカさだと、毎日はつけれないよ? まず仕事では無理」
「それは困るな」
「だろー? いいじゃん、こっちのほうが。これで、ナンパされてもサッと左手上げればいいだけだし」
その時に為すのと同じく、紅美子は手の甲を前に向けて、顔の横へ差し上げてみせる。
「うん……。……クミちゃん、はしゃいでる?」
「む」
珍しく痛いところを突かれたので、「はしゃいでないよ。男除けができたからうれしいだけ」
と、知らず知らずのあいだに高くなっていた声音を意識的に落とした。
「効果あってほしいな」
腰に回った腕が強くなる。鬢の毛に吐息を感じ、気まずく欄干に置いていた左手を、徹の甲の上に重ねた。
「……徹は、女除けなんか要らないよね?」
「うん」
「ほんと?」
「うん」
「そんなこと言ってて浮気したらどうしてやろうかな」
「心配、なの?」
「……別に。徹はモテないからなー」
「モテてもモテなくても、絶対にしないよ」
耳の後ろに息を感じる距離で言われ、紅美子は立ったまま徹に少し体重を預けて凭れかかり、軽く身を揺らした。背中に感じる体温が心地いい。
「そんなのわかんないじゃん? すんごいエロい女とか現れたら、私のことなんか忘れるかも」
「怒らせようとしてるの?」
「怒るの?」
「怒る」
徹は片手を抜いて、左手の上から更に重ねた。「もし浮気したら、殺してくれていい」
突飛な発言に紅美子は両肩を上げてみせ、

