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爛れる月面
第1章 違う空を見ている

「えっ、どうしたんですか?」
「……ほほ……、おほほ……。あの、もしかしていま、クミとチョメチョメ中だった? あーもう、ごめんねぇ、オバチャン空気読まなくって」
まるでどこかから見ているかのようだったので、思わず紅美子は周囲を見回し、徹は穏やかな笑い声だけを返すと、
「ほんっと、水差してごめんねぇ。うん、ま、徹ちゃんも、よくよくご存じのことなんだけどぉ、ほらクミってね、心はひん曲がっちゃってるのに、まーいかんせんカラダは……カラダ、だけ、はスゴいから。もう徹ちゃんの好きなよーにしちゃっていいの」
「いいえ、お母さん、僕はクミちゃんの心も大好きで……、っ」
徹を黙らせようと、手のひらで口を抑える。しかし電話の向こうに対してはそうもいかず、
「まあっ! もぉ、オバチャン泣いちゃいそうよぉ。あのね徹ちゃん、そんな来年とかまで待つ必要ないの。どうぞご自由に、縦にでも横にでもしちゃって。もし、赤ちゃんデキちゃっても、オバチャンが責任持って──」
「やめて、ママ!」
紅美子は電話を引ったくり、叫んでから切った。遠くから、「ダメよ、徹、クミちゃんを大事に──」と、徹の母親の声が聞こえてきたが、手遅れだった。
「……。ママに向かって何言ってんの?」
携帯を徹の胸に押し当て、睨みつける。
「だって、本当のことだから」
「『心も』って何? 『も』って。私のカラダ好きですって言ってるようなもんでしょ」
「うん」
「私のママに向かって? 自分のお母さんもいる前で?」
徹は特に恥じ入る様子もなく、何がおかしなことなのだろう、という顔をしている。まったく心当たりがない状態から理解させるのは困難を極めるし、自分のほうばかりが取り乱しているのが馬鹿らしくなってきて、紅美子は髪に手を入れて長く息を吐いた。
「いいよ、もう……。徹に言った私が馬鹿でした」
「うちのお母さんの携帯借りてかけてきたみたいだね」
「油断したわー。徹のお母さん、うっかり貸しちゃだめだよ、あんなのに」
「クミちゃんのお母さんも、元気そうでよかった」
「まだ早い時間なのに、もうできあがっちゃってんのかと思ったよ」
「……ほほ……、おほほ……。あの、もしかしていま、クミとチョメチョメ中だった? あーもう、ごめんねぇ、オバチャン空気読まなくって」
まるでどこかから見ているかのようだったので、思わず紅美子は周囲を見回し、徹は穏やかな笑い声だけを返すと、
「ほんっと、水差してごめんねぇ。うん、ま、徹ちゃんも、よくよくご存じのことなんだけどぉ、ほらクミってね、心はひん曲がっちゃってるのに、まーいかんせんカラダは……カラダ、だけ、はスゴいから。もう徹ちゃんの好きなよーにしちゃっていいの」
「いいえ、お母さん、僕はクミちゃんの心も大好きで……、っ」
徹を黙らせようと、手のひらで口を抑える。しかし電話の向こうに対してはそうもいかず、
「まあっ! もぉ、オバチャン泣いちゃいそうよぉ。あのね徹ちゃん、そんな来年とかまで待つ必要ないの。どうぞご自由に、縦にでも横にでもしちゃって。もし、赤ちゃんデキちゃっても、オバチャンが責任持って──」
「やめて、ママ!」
紅美子は電話を引ったくり、叫んでから切った。遠くから、「ダメよ、徹、クミちゃんを大事に──」と、徹の母親の声が聞こえてきたが、手遅れだった。
「……。ママに向かって何言ってんの?」
携帯を徹の胸に押し当て、睨みつける。
「だって、本当のことだから」
「『心も』って何? 『も』って。私のカラダ好きですって言ってるようなもんでしょ」
「うん」
「私のママに向かって? 自分のお母さんもいる前で?」
徹は特に恥じ入る様子もなく、何がおかしなことなのだろう、という顔をしている。まったく心当たりがない状態から理解させるのは困難を極めるし、自分のほうばかりが取り乱しているのが馬鹿らしくなってきて、紅美子は髪に手を入れて長く息を吐いた。
「いいよ、もう……。徹に言った私が馬鹿でした」
「うちのお母さんの携帯借りてかけてきたみたいだね」
「油断したわー。徹のお母さん、うっかり貸しちゃだめだよ、あんなのに」
「クミちゃんのお母さんも、元気そうでよかった」
「まだ早い時間なのに、もうできあがっちゃってんのかと思ったよ」

