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爛れる月面
第1章 違う空を見ている
 元は一軒家をアパートに改修したらしい徹の住処は、山肌に忽然と現れ出たように単独で建てられていた。足元の道路から引かれた未舗装の細道には、途中にトタン屋根の農耕具の倉庫があるのみ、オーナーも別の所に住んでおり、一階も貸部屋だが今は空いているらしい。研究に打ち込むには良い環境なのかもしれないが、夜は物騒だ。

「星がすごい。月もなんか、大きく見える」
「空気が澄んでると、光がたくさん入ってくるからね」

 しかし今夜の月は、橙みがかって凶々しかった。陰影の輪郭も滲んで見える。

「──クミちゃん」
「ん?」
「キレイだよ」
「どうした、急に」

 窓枠を背負うようにして立ち、徹のほうに身を向ける。

「いや、月見てるクミちゃんがさ、すっごいキレイだったから」
「見とれた?」
「うん。ずっと見てた」
「黙って見てたんだ? 覗き魔だ」
「なんか、月に昇って行っちゃいそうだった」
「何そのホメ言葉」

 気取った文句が似合わなすぎて笑ったが、徹は真顔のまま、

「そっち行って、キスしていい?」

 と言ったから、

「……させてあげる」

 ならば両手を使いたく、タバコを消した。

 徹が立ち上がる。下半身に掛かっていたタオルケットが足元に落ちても、隠さず近づいてくる。股間では肉幹が上向き、歩く度に揺れていた。下腹部に漂う痺れが強くなり、手の届きそうなところまでやってきたので両手を差し伸ばそうとすると、急に、視界から彼が消えた。

「わっ、ちょ……」
 徹は紅美子の足元に跪き、両手で腰にしがみつくようにして、閉じている脚の付け根へと顔を近寄せてきた。「……そっち!?」

 柔丘に息がそよぐと下肢が震え、鼻先をももの狭間に押し付けられて自然と力が抜けてしまった。唇がクレヴァスの縁をはむ。両脇に置いた手で窓枠につかまっていなければ、とても立ってはいられない。

「もう……、何してんの、キスは?」
「……んっ、……してるよ」

 吸いつく湿音に混じり、脚の間から籠った声が返ってくる。すっかり緩んでしまった狭間からは、漏れ出る襞を舌がなぞるたびに熱い蜜が滴っていた。

「やっ……、徹。待って……、ん!」
 過敏な反応が恥ずかしく、片手で徹の髪を抑えたが、グッと腰を固められ、舌にこじ開けられた。「どう、したの? 徹、なんか、変……」
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