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爛れる月面
第1章 違う空を見ている
 急に尊大な口調で言われた瞬間、身が引き締まり、弛みを繰り返して、連なった。最後にどんな嬌声を放ったか、聞き取れなかった。壁に凭れて座っていたはずなのに、いつのまにか地べたに肩がつき、仰け反っていた。真っ白な意識の中に彼を探す。抱きしめてほしいと思ったら、口にしなくても抱きしめにきてくれる徹なのに、痙攣を繰り返す襞道で、まだ指がゆっくりと出し入れされている。

「あっ……、ちょ、……やめて」
「なぜ?」
「だって……、す、すごい、なんか、もう……」
 絶頂直後の身の内を引き続き擦られると、甘痛い感覚が下腹に広がった。「うっ……!」

 尿口から飛沫が上がったのが、自分でわかった。自慰をさせ、放出直後の肉幹をいじめた仕返しか。しかし今は、こんなことがしたいのではない。腕を巻き付け合い、肌を擦り合い、深くまで唇を重ねたい。幼馴染は、初めて恋人を導いて、自信を持ったのかもしれない。いつも自信を持って欲しい、とは言ってきたが、だからといって、自分がしたい時に、したいことだけを、していいわけではなかった。睦み合うべき時には、睦み合う、それを忘れさせてはいけないと、股ぐらの手を振り払い、身を起こし、真顔で詰り、彼が猛省を示したら、キスを与えて許してやる──白む意識の中で思った。なのに紅美子はできなかった。

「とんでもないカラダだな」

 まだ指は遠慮なく、我が物顔に牝の内部をイジくってくる。突き飛ばすべき紅美子の手は、動かなかった。動かせなかった。そういえば両手は顔を覆っていたはずなのに、そこにはなく、体の後ろから離れない。

「んっ……」

 また、雛先をジュルッと吸われた。小さな火花のような性感が弾けるが、内ももに、何かが触れた。硬く毛羽立った筆先で擦られたような、チクリとした感触。

「ずいぶん派手にイッたじゃないか」
 白靄が晴れてくる。靄だと思っていたのは煌々とした光で、瞳孔が調整されて初めに映った景色は、身に憶えのない天井だった。「何だかんだ言ってたけど、結局、君はこういう女だったんだ。そうだろ?」

 照明が遮られる。人影。逆光ではシルエットで見えなかったが、徹のような優しさの欠片もない、低く響く声──

「……! ちょっ!!」
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