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爛れる月面
第1章 違う空を見ている
 強いられている体勢から言って、答えは明らかだったが、後ろ手に縛られて寝転がらされていては為す術なく、目の前の事態を否定したい言葉しか絞り出なかった。

 何も答えず、井上が牡の突端を肉迫させてくる。

「やめ……、やめろっ!!」

 何とか、腰を捻って躱そうとするが、

「往生際が悪い」

 井上は持っていた幹を紅美子の脚根に立てかけるように置き、左右から持ち上げるようにしてバストを掬い上げ、身を伏せてきた。先端を口内に含まれ、背を悪寒が駆ける。逆の乳房は、大きな手に無遠慮に捏ねられている。

 だが井上の舌は、並外れた紅美子の体を貪り尽くしてやろうというより、やたらと落ち着いた、身肌から伝わってくる反応のひとつひとつを確認するかのような、泰然とした動きだった。起こさなければならない激発を否し、ことごとく鎮めていく。

「腰がイヤラしいな」

 井上に言われて、シーツとヒップが擦れていることに気がついた。喋った拍子に、また、ふくらみにチクチクとした髭の感触。バストを縦恣しているのは、間違いなく幼馴染ではない証拠だ。

「うっ……、ち、ちがう……」
「何度言ったって、違わないさ」

 片方を絞られ、乳首を親指に弾かれた。もう一方の手が、ヒップから続く、見事なウエストのラインを手のひらで撫ぜてくる。

「ゆめ……、夢、見てた、だけだって」
「夢?」

 背から回ってきた、もはや悪寒と形容するのは難しい、妖しく懼しい微震に、腰だけではなく上躯もくねり、井上にわからせてやるというよりも、自分自身を納得させるために、場違いだがありのままの事実を告げた。

「面白いことを言うな、君は」

 こちらも場違いな笑いを浮かべる井上へ、

「あんたなんかじゃない。とお……」
「しかし」
 教えてやるべき名は遮られ、「今、君がヤッてるのは、この僕だ」

 覆い被さる髭の男へ眉間を刻んでやろうとしたところで、体の手が一瞬離れたかと思うと、死角となっていた下半身に違和感を感じた。

 違和感だけなら、まだマシだった。

 内壁を圧し広げた異物は深甚まで挿し入って、自分とはリズムの異なる脈拍を伝えてきていた。井上は顔つきを何ら変えず、紅美子を見下ろしている。
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