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爛れる月面
第2章 湿りの海
「夢……。夢、見てたって言ったろっ。徹と、してる夢、見てたんだっ……」

 避けていた恋人の名を出してでも、抗弁せざるをえなかった。
 どんな馬鹿げた告白であろうが、それが、真実なのだ。

「それは昨日も聞いたよ。エロい夢を見てたから濡らした、って言い張るんだな?」
「んっ……」

 井上の中指が、紅美子の雛先を捉えた。言いようのない不吉を感じて、何としてでも引かせようとするが、やはり、腕はビクともしない。

「しかし、今日は、夢じゃない」

 低く、流れ込んでくる声。

 集中的に、そして陰湿に擽ってくる。生地を挟んでいるというのに、性感の集中する突起を巧みに捕らえられた。夢から醒める直前、下腹を痺れさせていた感覚が湧き起こってくる。同時に、本当に夢の中だけだったのか、という疑念も、芽生えさせていた。

「んんっ……!」

 疑念が油断を呼び、より強く捏ねられると、ヒップを壁に打つほど震わせてしまった。観察し、分析するような奸邪の眼光を顔じゅうに浴びせられられて、

「ち、ちがう……」
「何度も言うな。違わないさ。昨日たっぷりキスしてやったじゃないか」

 ちがう、それは徹だ。

 今まで丁重に丁重に扱ってきた大人しく優しい幼馴染が、初めてそこへキスをしてくれたのだ。自主的に。指も入れたいと言った。求める気持ちを、率直な振る舞いで示してきたのを、受け入れてやったまでなのだ。

(……ううっ)

 しかし今となっては、夢と現の境は朧げだった。たしかに、三週間ぶりに会った徹は篤く執着し、何度も何度も求めてきた。しかしいま、口愛を施されたという記憶は、どこを探しても浮かんでこない。

 あそこまで、中を緩めさせ、潤わさせたのは……。

「やめ……、やめてっ!」
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