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渇いた心に水を注ぐ
第1章 プロローグ
「あっ…可哀想に…」

思わずしゃがみ込んで、元気のないプランターを見る。
周囲を見回して自動販売機でミネラルウォーターを2本買って戻ると、たっぷりと水を注ぐ。

「地植えなら少しは大丈夫だけど、
鉢植えにされちゃうとお水…気をつけてあげないとね。
こんなに素敵な寄せ植えなのに…。
本当は置き場所も…ここ、可哀想ね?」


とはいえ、勝手に他人のプランターを動かす訳にはいかないし、
多分、非力な私では動かすことも出来ないだろう。


「ごめんね?
助けてあげられなくて…。
明日もお水、持ってくるからね?」


時計を見て立ち上がると、立ち眩みがした。
4月とはいっても日差しが強い。
日傘を差しながらゆっくりと歩き始めた。
いつもと違う道を通ってあげて良かった。
そう思いながら学校に向かう。



校門で守衛さんに挨拶して、
ゆっくり職員室に入り、通常業務を始める。
月曜日から木曜日、
8時から17時の非常勤の勤務。
土日祝日もお休み。

高校まで通った母校は、
安心で安全な、私にとってのオアシス。

男の先生も他の学校に比べるととても少ないし、
守衛のおじさんは私が子供の頃からずっと校門に立ってる人で、
彼が門を守ってくれるから、
中に怖い人は入ってこない。

ずっとそう思っていた。




「真由子先生、お疲れ様でした」の声にハッとする。
もう帰る時間だった。

また、あのプランターの様子、
見て行こうかな?

そう思って少し回り道をしてみた。


ドアの内側に灯りが見える。
どうやら、何かのお店のようだった。

人の気配もする。
シルエットが大きくて、
男性っぽいので、
そそくさと通り過ぎた。

ドアが開くような音も聴こえた。
思わず小走りになる。

知らない人、
苦手。

男の人はもっと苦手。



プランターは…
少しだけ元気を取り戻しているようだった。


髪も今日は洗わなくちゃ。
心が重くなるけど、
洗面台で洗うなら大丈夫。

そう言い聞かせながらのんびり歩いて帰宅した。

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