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時と運命の調律者
第3章 VS.鵺
 多少、天然な箇所はあったが以前は朗らかで礼儀正しく、オフィスの人々にとっては緩衝材と言うか、冷却剤と言うか。

 いわゆる“癒やし系”であったのだが仕事はそれなりに真面目に取り組んでいたし、飛び抜けた成果は無くても与えられた役割は、それでも着実に熟して行く、そんな男だったのだ。

 それが三年前から一変した、文字通り人が変わったように仕事の鬼となりメキメキと頭角を現し始めた。

 ところがその頃から身体は痩せ細り始めて性格もキツくなり、人相までが変わってしまった、余裕が無くなったと言うか、柄が明らかに悪くなっていった。

 人にも良く、絡むようになった、仕事で誰かがミスるといつまでもグチグチと文句を言い続け、不満を隠そうともしなくなった。

 その変化は家庭でも如実に現れていった、何とそれまで子煩悩だった彼は、夜泣きをする子供に“煩い!!”と怒りをぶつけるようになっていったのだ。

 それは妻に対しても同様だった、以前はいつも“毎日ご飯ありがとう”とか“洗い物は僕がやっておくからね”と言い、伴侶に対しての感謝と気遣いとを忘れない男だったのだ、それなのに。

 彼は妻に手を上げるようになっていった、何か気に食わない事があると、どんなに些細な事でも彼女を責めて自分の思い通りにならないと気が済まない、そんなDV男へと変貌してしまったのだ。

 変わり果ててしまった彼との毎日に付き合いきれなくなった妻は別居を決意し、二年前に子供を連れて家を出た。

 離婚しないでいたのは、冷却期間を置けば以前の彼に戻ってくれるかも知れないと言う、一縷の望みを持っていたからだったのだ。

 ・・・要するにまだ、心の奥底では彼への愛を捨てきれずにいたのだが、それだけではなかった。
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