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時と運命の調律者
第22章 謎解きはお風呂の後で
 切っ掛けは一匹の虫だった、ソイツはどんなに戸締まりを厳重にしても、綺麗に清掃をしたとしても、必ずや何処からか侵入して繁殖する、黒くてテカテカと光っている、例のアイツであったのだ。

「きゃあああぁぁぁぁぁっっ!!!!!」

「なんだ、なんだ?」

 リビングで寛いでいた蒼太の耳元に、甲高い金切り声が響いてきたのはその日の夜の事だった、声の主はメリーニであり、発生源はお風呂場だったから、季節柄、蒼太には大体の事が容易に想像が出来たのだ。

「どうしたの?」

「|カ、カクラウチ《ゴキブリ》が・・・」

「・・・はあぁぁ」

(やっぱりな)

 そう思いつつ、蒼太は洗面台の下から素早く“秒殺、ゴ○ジェット”を取り出すと“入るよ”と断りを入れてからスライド式のドアを勢いよく開ける。

 すると中には湯船に浸かりながら顔だけ出しているメリーニと、天井で蠢く怪しい影の存在があった。

「・・・・・」

 蒼太は慣れた手つきでゴ○ジェットを持つと、ソイツ目掛けて“シューッ”と一吹き吹きかけた、すると。

 次の瞬間、ソイツは天井から落ちてきて少しの間、バスルームの床の上でジタバタともがいていたが、程なくして動かなくなり、無事にあの世へと旅立って行った。

「はあぁぁ。ありがとう、蒼太・・・」

「びっくりしたよ。・・・まあ多分、そうだろうと思っていたけど」

 そう言うと蒼太は“もう居ないだろうな?”と念入りに辺りを見渡している内に、あることに気が付いてー。

 驚愕の余り、思わずその場に立ち尽くしてしまった。

「・・・?あ、有難う蒼太。もう大丈夫」

「メリー・・・!?」

「ええっ!?あああっ!!」

 蒼太に続いて、メリーニも気が付いていた、彼が凝視していたのはお風呂場に備え付けられていたバスミラーであり、見ていた角度的に、そこには自分自身のそれと共にメリーニの姿が映し出されていたのだがー。

 鏡の中のメリーニは、メリーニではなかった、そこに居たのは可愛らしさと美しさの同居している整えられた顔に、パッチリと開かれた青空色の瞳。

 腰まで伸びた美しい金髪の、色の白い女性であった。

「メリー・・・」

「あうぅぅ・・・」

 蒼太が再びその名を呼ぶとメリーニは、否、メリアリアはそう呻いて不安そうな、それでいて申し訳無さそうな表情で、その場に蹲ってしまった。
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