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嵐の夜に痕をつけられて
第8章 エピローグ
「冗談だよ。急げよ」


そう言って相沢さんは私の頭を撫でながらおでこに軽く口をつけて部屋を出ていった。

昨日から今に至るまでの相沢さんの変貌ぶりに口が塞がらない。

呆けてしまった頭をどうにか現実に引き戻して、私は急いで服を着て身支度をした。
今は一旦家に帰って会社に行くことだけ考えなきゃ。


「よし、それじゃ行くぞ」


いつもの見慣れたスーツ姿になった相沢さんと一緒に早朝の住宅街を車で走る。
十五分ほどで私のアパートに着いた。
相沢さんのマンションって意外と近かったんだと今更思う。


「車で待ってるから。準備したら出ておいで」


アパートの前で車を停めた相沢さんが言う。
そう言うだろうなとは思ったけど、さすがに車でずっと待たせるなんて出来るわけがない。


「上がって下さい。コーヒー淹れるんで」

「……いいの?」

「構いませんよ」


こないだ亮太の荷物をまとめたときに、ついでに部屋の大掃除をしておいて良かったと心底思った。
人を招いても恥ずかしくはない程度には片付いている。

相沢さんにコーヒーとトーストを用意して、私は急いでシャワーを浴びて着替えて化粧をする。

その間、相沢さんはずっとソファに座りテレビを見ながら待っていた。

自分の家に相沢さんがいる。
想像したことすらない事実が目の前にあると可笑しくなってくる。


「ふふっ」

「なに? 何かあった?」

「いえ、何でもないです。うちに相沢さんがいる、と思うとなんだか不思議で」


そう言うと相沢さんは立ち上がり、台所で自分のコーヒーを淹れていた私に近付いてきた。
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