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第1章 レディスキッチン 園
 夕方、駅前で待っていると、予定時間より少し遅れて父親がやって来た。早歩きでもしたのか、息が切れていた。

「やあ、待たせたねぇ……」父親は言う。いつもののんびりした頼り無さそうな父親だ。「ちょっと仕事が長引いちゃってねぇ。……さあ、行こうか」

 父親は言うと先を歩く。母親はすぐに父親と並んで歩き出した。彩乃はその後ろに続く。

 このまま真っ直ぐ行ったら、例のレストランの前を通る事になる。彩乃は変に意識していた。彩乃は周りを見る様子で、例の看板を探している。しばらく歩くと、五階建てのビルが見えてきて、「女性食べきりサイズ」と手書きされた看板が立っているのが見えた。

 両親は関心を示すことなく看板の前を通り過ぎた。彩乃も通り過ぎたが気になって振り返った。

「あっ……」

 彩乃の足が止まった。田所のおばさまの姿を見たからだ。その隣には若い娘がいた。娘はおばさまにぴたりと寄り添っている。二人は彩乃に気がつく事も無く、看板の横の地下階段を降りて「レディスキッチン 園」へと向かった。

「うわぁ……」

 彩乃は思わず声を上げた。

「どうしたの?」

 母親が振り返った。父親も怪訝そうな顔をしている。

「いや…… 結構、様変わりしたなあと思ったら、変な声が出ちゃった……」

「ははは、この街も急速に変わって行っているからなぁ」父親が笑いながら言う。「彩乃が就職する頃には、もっと変わっているかもな」

「……そうね」

 彩乃は何とか誤魔化した。再び何事もなかったかように歩き始める。

「……あら、彩乃?」

 彩乃は声をかけられた。声の方に振り向く。
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