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新解釈 紺屋の女房
第5章 高尾太夫との合瀬
高尾太夫は一言も発せずに
煙管(キセル)にタバコの葉を詰めて火を付けた。
ふう~っと紫煙を久蔵に吹き掛けたあと、
火鉢にタンっ!と煙管を叩きつけて
火種を火鉢の中に落とした。
「お時間でありんす。
さらばでありんす」
高尾太夫が初めて発した言葉が別れの言葉であった。
『冗談じゃねえ!
あんたに会うために俺は3年間も金を貯めこんだんだ!』
久蔵は、ここで帰してなるものかと太夫の手を繋ごうとした。
「触りんせんで!!」
太夫は一喝すると煙管(キセル)で久蔵の手を叩いた。
太夫が声を荒げたので、
廊下に控えていたお鈴が慌てて部屋に飛び込んできた。
「太夫、どうしたでありんすか?」
太夫と客が差し向かいのところに飛び込むのはご法度ゆえ
高尾太夫はお鈴を睨み付けながら
「この野暮(やぼ=田舎者)はなんざんす?
あちきに触ろうとしたでありんす!」
そう言われてお鈴はやれやれといった表情を浮かべ
「こん主(このお客)さまは、遊郭に不慣れでござりんす」
どうぞ、許してやってくださいませと
お鈴は畳に額を押し付けて太夫に詫びた。