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あなたへ……千鶴子より
第1章 愛撫
彼が学生帽を脱ぎました。
彼の顔が、膝より内側に入りました。
彼が、ごくりと唾を飲むのが分かりました。
ああ、私の大事なところが、あなた以外の男の人の目に触れるなんて……。
彼の目には精気が戻ってきました。
30分ほど前のうつろな目と違い、瞳に力が宿っていました。
まさに、若々しい艶で満ちた顔でした。
今の私には、羨ましいくらいの若さでした。
そんな、若い瞳に見つめられ、私は恥ずかしかった……。
たぶん、そう、顔から火を噴きそうなくらいに……。
でも私は、彼に “まだ生きなければならない理由”を作ってあげられたことを、嬉しく思いました。
恥ずかしさより、嬉しさの方が勝っていました。
こんな、“おばさん”でも役に立てるのが嬉しかったのです。

彼は、あの場所に立っていたの。
あなたとの思い出の場所。
二人で見つけた、秘密の場所。
良くそこから二人で寄り添って海を眺めましたね。
彼は、そこにひとりで海を見つめ、立っていました。
私は雑木林の中で小用をして、出て来たところでした。
彼は、うつろな目をして、はるか下の波が打ち寄せて岩にぶつかり、砕ける様を見ているようでした。

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