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第8章 『飼い主』

綾宮和彦。
奈緒の大学時代の恩師である。
経営学部のゼミの担当教官だった綾宮の冷薄で端正な顔つきが頭を過った。

「そ、そんな……今さら……」

声を震わせる奈緒に周りのものは奇異な視線を向けた。
しかし奈緒の脳内はそんな視線すらわからないほどパニックに陥っていた。

木曜と言えば明日だ。
もちろん奈緒は呼び出しに応じるつもりはない。
返信はおろか、メールそのものを削除してしまう。
しかしメールを削除したからといって現実で何かが変わるわけではない。
奈緒は怯えながら足早に家へ帰宅した。
部屋についても落ち着くことのない奈緒はベッドに潜り込んで震えていた。
(いやっ……絶対に……絶対に行かない……）
智輝のことを無理にでも思い出しながら奈緒は涙を流していた。