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第10章 すれ違い

何事かと周りの人間は智輝に注目する。
そんな視線も智輝にはどうでもよかった。

「違う。そうじゃない……」

満員電車が次の駅に止まった瞬間、智輝は人混みを掻き分けて電車を降りた。

「大切なのはっ……」

今一番大切なのは仕事じゃない。
奈緒だ。
今諦めてしまえば一生後悔する。
仕事に行かなければなんて逃げてるだけだ。
奈緒だけは失いたくないっ……

智輝はとにかく奈緒の部屋へと急いだ。
電車を乗り継ぎ、奈緒の家の最寄り駅で降りて走った。

何でもいい。
何か手がかりが欲しい。
奈緒を探し出す手がかりが。
別れようなんて、奈緒が言うわけがないっ!!
なにか、何かあったんだっ!!

奈緒を信じて智輝は走った。