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見習いドS彼氏
第11章 羨望
「申し訳ございません。それは社外秘となっております」

同僚の受付嬢はそれ以上の質問は受け付けられないという態度で冷たく言い放った。
それでも諦めない智輝がどれだけ質問をしようとその態度に変化はなかった。

(引越しをした上に職場の部署まで異動になった……一体何が起きてるんだよっ)
砂を噛むような思いで智輝は公園のベンチに座っていた。
新しいプロジェクトというのがトップシークレットの危険なもので、自分を巻き込まない為に姿を消したという誇張した妄想までもが頭を過ぎっていた。
しばらくベンチでそうしていた智輝は唯一の望みの蔦である引越し先のマンションの前まで来てしまっていた。
昨日の夜の推測からこのマンションは奈緒の引越し先ではないと考えていた智輝であったが、それ以外には何の手がかりもない。
奈緒と知り合ったコンパのメンバーなんて即席のもので連絡もコンパ以降取ってはいない。
奈緒の職場の同僚に知り合いもいない。
これだけ徹底して姿をくらましているのにスポーツクラブにやってくるとも思えない。
もはやこのマンション前の張り込みだけが智輝に出来る最後の悪あがきであった。

智輝の憶測は正しく、当然のこのマンションは奈緒の引越し先ではなかった。
いくら待とうが奈緒が現れるわけはなかった。
もはやこうして奈緒を待つという行為が目的となってしまったかのように智輝はじっとその場で待機していた。
やがて雨が降り出した。
ぽつぽつと地面を濡らし始めた雨は五分も立たないうちに傘を差さずには歩けないほどの雨量になった。
雨を凌げる場所も辺りにはない。
智輝はずぶ濡れになりながらじっとその場で奈緒を待っていた。
(きっと来る。奈緒はきっと来るんだっ……)
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