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私は管理人
第6章 久孝さんと玲子さん

「脇坂さん…廊下掃除はわたしの役目ですから
気を使わなくていいんですよ」

「ええ、わかってはいるんですが
体に染み付いちゃってるんでしょうね
朝は箒と塵取りを手にしないと落ちつかなくて…」

わたしも管理人を引退したら
脇坂さんのように習性が身について
きっと朝は掃き掃除をしちゃうんだろうな…

「挨拶だけではなんだし、
良かったらお茶しませんこと?」
脇坂玲子さんのお誘いに無碍に断るわけにもいかないんで、
じゃあ…ちょっとだけお邪魔しようかしらと
わたしは彼女の部屋に足を踏み入れたんです。

彼女の部屋は、もともと大野さんが住んでいた部屋でもあるので懐かしい気持ちと
その後に入居した吉岡に虐げられたイヤな思い出が複雑に交差しました。

「ほら、遠慮しないでお上がんなさいな」

玄関先でボーッとしているわたしを
脇坂さんの声が現実に戻してくれます。

「あ、じゃあ…お邪魔しますね」

廊下の先のリビングのドアを開けた途端、
心が落ち着く香りが漂ってきました。

『これは…白檀の香りかしら』

香りの原因はすぐさまわかりました。
リビングの隅っこに小さな仏壇があって
匂いは仏壇にお線香を炊いているのだと気づきました。

「線香臭くてごめんなさいね
朝の掃除も日課だけれど、
こうして主人に線香をあげてやるのも日課になっちゃっていて…」

「ご主人…ずいぶん若くに亡くなられたんですね」
若々しい遺影が若い頃に亡くなった事を物語っていました。

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