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私は管理人
第6章 久孝さんと玲子さん

「そうね…結婚して三年で旅立ったわ…
まだ子作りも計画中だったので
おかげで身寄りのない老人になってしまったわ」

キッチンで急須にお茶を入れながら
玲子さんは自虐的に笑った。

「そんな…老人だなんて!
脇坂さんは魅力的な熟女だわ」

「熟女ねえ…老いたことを認めたくない人が言い出した言い逃れよ。
熟女だなんて関西弁で言えば『おばはん』ですもの」

寂しそうに笑う玲子の横顔を見つめながら
ほんとに魅力的な女性なのにと
何を言ってもマイナス思考に捉える玲子に
それ以上なにも言えませんでした。


そんな物静かな菩薩のような脇坂玲子さんに噛みついてきたのは上の階に住む桜本久孝という青年でした。
彼は近くの大学に通う20歳の男性で
アルバイトもせずに100%親の仕送りで生活するお坊ちゃんです。

「管理人さん!何とかしてくださいよ!」

「あら?下の階の脇坂さんにご不満なの?」

「不満もなにも、あの匂いですよ!
洗濯物に変な匂いが染み着いちゃってるんですよ!」

ははあ~ん、お線香の香りの事ねと
わたしはピンときました。

初夏だから、どうしても窓を解放してしまうので
お線香の香りが階上に流れてしまうのね…

「わかったわ…もう少し香りを抑えてもらうように言ってみるわ」

最近は香りを抑えた線香もあるらしいから
そういうものに変えてもらおうと
わたしは気安く引き受けてしまったのです。

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