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淫夢鉄道の夜
第2章 ヤリサーのリーダーだった男
ひとしきり撫でると友樹は、背中にかけたデイバックを下ろし、中から一眼レフのカメラを取り出した。車体の前・横・後と位置を変え、様々な角度からシャッターを切る。先頭の行先表示板はアップで撮った。自撮り棒に付けて、自分と車輌を一緒に写すことも忘れない。

30回くらいシャッターを切っただろうか。「よし」友樹は満足気に言葉を発すると、デイバックを拾い上げ、車輌の中へと向かった。

両サイドに4人掛けのボックス席がずらりと並んでいた。先客は2人だけ。後ろのほうのボックスに少し間を空けて座っている。友樹は、ここでも写真を数枚撮ってから、中ほどのボックス席に腰を降ろした。

腕時計を見ると、発車まで30分くらいある。

「早いけど、いいかな」

隣に置いたデイバックからカップ酒を取り出し、蓋を開けた。地酒特有の甘い香りが鼻にツンとくる。一口飲むと、よく冷えたアルコールがスーッと食道を通っていった。

「ふーっ」

長い溜息が漏れた。

窓の外には長閑な田舎の町並みが広がっている。線路際にぽつんと立つ楓の木には、ちらほら赤い葉が混じり始めていた。山の方では紅葉が進んでいることだろう。太陽は明るく、天気も申し分ない。

友樹は膝の上に置いてあるカメラを撫でると、これから始まる旅への期待に思いをはせながらもう一口酒を飲んだ。
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